年次有給休暇は、フルタイム、パートタイムを問わず、一定の要件を満たしたすべての労働者に付与されます。入社時期が異なれば「いつ、何日付与すべきか」、「入社直後に前倒しで付与してもよいのか」など、判断に迷うケースも少なくありません。2019年4月からは、すべての使用者に対して、年5日の有給休暇の確実な取得が義務づけられました。
この記事では、有給休暇の付与タイミングや基準日の考え方などを整理し、斉一的取扱い(基準日の統一)や前倒しで付与する場合などの注意点について解説します。
有給休暇とは?制度の基本を確認

年次有給休暇は、毎年一定の日数の有給休暇を与えることにより、労働者に安心して休養を取ってもらい、①心身の疲労の回復を図ること、②ゆとりある生活の実現に資することを目的としています。
有給休暇の基本(フルタイム労働者)
①付与日の直前1年間(最初の付与は直前6か月)の出勤率が8割以上の労働者が対象になります。
②採用から6か月を経過した日に、10日の有休休暇を与えなければなりません。
③その後、1年間を経過するごとに、勤続年数に応じた日数を与えなければなりません。
有給休暇の付与日数(基本)
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年~ |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
〔例〕4月1日に採用した場合、10月1日(=基準日)に10日を与え、その後、毎年10月1日に勤続年数に応じた日数を与えます。給料の締日や勤務シフトの期間とは関係なく、入社日から起算します。
パートタイム労働者(パート・アルバイト)も有給休暇の付与対象
①パートタイム労働者であっても、週所定労働時間が30時間以上または週所定労働日数が5日以上の場合は、フルタイム労働者と同じ日数(上記の表(基本))を与えなければなりません。
②週所定労働時間が30時間未満で、なおかつ週所定労働日数が4日以下のパートタイム労働者については、所定労働日数に応じて下表の日数を与えなければなりません。
パートタイム労働者の有給休暇の付与日数
週所定 | 1年間の所定 | 勤続年数 | ||||||
日数 | 労働日数 | 労働0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年~ |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 72日 | 48~1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
有給休暇の取得単位
①有給休暇は、原則として1労働日を単位(日単位)として付与されます。
②ただし、労使協定を結んだ場合(届出不要)には、使用者は、1年に5労働日を限度として、時間単位で有給休暇(時間単位年休)を与えることができます。労使協定では、(ア)時間単位年休を与えることができる労働者の範囲、(イ)時間単位年休の日数(前年度の繰越し分を含めて5日以内)、(ウ)時間単位年休1日の時間数、(エ)1時間以外の時間を単位とする場合にはその時間数を定めます。
③これら以外にも、労働者からの申出があり、使用者がこれに同意した場合であれば、1日単位取得の妨げとならない範囲で、半日単位で有給休暇を与えることが可能と解されています。
有給休暇の時効
有給休暇は、付与された日から2年で時効となります。与えられた日から1年間で使い切れなかった有給休暇は翌年に繰り越し、新たに与えられた有給休暇に加算しますが、さらに1年間使わなかったときは時効により消滅します。
出勤率の計算方法

出勤率は、次の計算式により算出します。
出勤率=(A)出勤した日÷(B)全労働日
その際、以下の点にご留意ください。
①「(A)出勤した日」のなかには、実際に出勤していなくても、出勤したものとみなして以下の期間または日を加えなければなりません。
・業務上の傷病による療養のための休業期間
・産前産後の休業期間
・育児休業または介護休業を取得した期間
・年次有給休暇を取得した期間
・労働者の責に帰すべき事由によらない不就労日
②「(B)全労働日」からは、以下の日を除外します。
・不可抗力による休業日
・使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
・正当な争議行為により労務の提供がまったくなされなかった日
・所定の休日に労働した日
・代替休暇を取得して終日出勤しなかった日
年5日の時季指定義務

2019年4月から、年5日の有給休暇を労働者に取得させることが、使用者の義務となりました。ポイントは、以下のとおりです。
①対象者
有給休暇の付与日数が10日以上の労働者が対象になります。
②年5日の時季指定義務
使用者は、労働者ごとに、有給休暇を与えた日(基準日)から1年以内に5日について、時季を指定して有給休暇を取得させなければなりません。
③時季指定の方法
使用者は、時季指定を行うにあたり、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できる限り、労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努める必要があります。
④時季指定を要しない場合
すでに5日以上の有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定を行う必要はありません。
⑤年次有給休暇管理簿
使用者は、労働者ごとに、時季、日数及び基準日を明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、5年間(当分の間、3年間)保存しなければなりません。
斉一的取扱い(基準日の統一)

労働者の入社日が異なれば、各人の基準日も異なり、管理が煩雑になります。そのため、以下の要件を満たせば、基準日を統一することが認められています。とくに中途採用が多い会社などでは、事務の簡略化につながるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
①出勤率(8割)の算定において、繰上げにより短縮された期間は、すべて出勤したものとして計算すること。
②翌年度以降も、初年度で繰り上げた期間と同じ(またはそれ以上の)期間、法定の基準日より繰り上げること。
〔例〕斉一的取扱いの例(すべての労働者の基準日を4月1日に統一)
労働者A
法 定 | 斉一的取扱い | 付与日数 | |||
入社日 | 4月1日 | 入社日 | 4月1日 | / | |
初回の基準日 | 同年10月1日 | 初回の基準日 | 同年10月1日 | 10日 | |
次回の基準日 | 翌年10月1日 | → | 次回の基準日 | 翌年4月1日 | 11日 |
労働者B
法 定 | 斉一的取扱い | 付与日数 | |||
入社日 | 10月1日 | 入社日 | 10月1日 | / | |
初回の基準日 | 翌年4月1日 | → | 初回の基準日 | 翌年4月1日 | 10日 |
次回の基準日 | 翌々年4月1日 | 次回の基準日 | 翌々年4月1日 | 11日 |
労働者C
法 定 | 斉一的取扱い | 付与日数 | |||
入社日 | 1月1日 | 入社日 | 1月1日 | / | |
初回の基準日 | 同年7月1日 | → | 初回の基準日 | 同年4月1日 | 10日 |
次回の基準日 | 翌年7月1日 | 次回の基準日 | 翌年4月1日 | 11日 |
基準日を統一する方法はいくつかありますが、労働者にとっては、採用日により有利、不利が生じることがあります。できるだけ不公平感を払拭できるよう労働者と協議しながら、自社の実情にあった制度になるようご配慮ください。
全部または一部を前倒しで付与する場合

使用者によっては、入社と同時に、有給休暇の全部または一部を前倒しで与えている場合があります。法定の基準日(採用から6か月後)より前に付与する方法は、労働者の早期定着やモチベーション向上などにつながるというメリットが見込まれます。また、労基法の基準を超える運用ですので、法的にも問題ありません。その反面、いったん前倒しで有給休暇を与えてしまうと、6か月未満で退職した場合でも、すでに取得した有給休暇を取り消して無給扱いにすることはできません。
このリスクを軽減するために、入社時に10日の有給休暇をすべて与えるのでなく、例えば入社時に5日、基準日にさらに5日という形で、10日のうち一部だけを前倒しで与える(分割付与)といった工夫も見受けられます。ただし、この場合、2回目以降の付与日は、分割付与した初回の付与日から1年以内としなければなりません。
〔例〕全部を前倒しで与える例(入社時に10日)
全部付与 | 付与日数 | |
入社日 | 4月1日 | / |
初回の基準日 | 4月1日 | 10日 |
次回の基準日 | 翌年4月1日 | 11日 |
〔例〕一部を前倒しで与える例(入社時に5日、基準日に5日)
分割付与 | 付与日数 | |
入社日 | 4月1日 | 5日 |
初回の基準日 | 同年10月1日 | 5日 |
次回の基準日 | 翌年4月1日 | 11日 |
どの時点で、年5日の時季指定義務が生じるか?
有給休暇を全部または一部前倒しで与えている場合、年5日の時季指定義務との関係で、以下の取扱いにご注意ください。 ポイントは、法定の付与日数が10日以上の労働者であれば、法定の基準日より前倒しで付与する場合であっても、付与日数の合計が10日に達した時点で義務が発生するという点です。
〔事例1〕法定の基準日(採用から6か月後)より前に10日以上の有給休暇を付与する場合
Q.入社(4月1日)と同時に10日以上の有休休暇を付与した場合
A.通常の場合は、入社から半年後の10月1日から翌年9月30日までの1年間に年次有給休暇を5日取得させることになりますが、例えば入社日(4月1日)に前倒しで10日以上の有給休暇を付与した場合には、その日から1年以内に5日の有給休暇を取得させる必要があります。
〔事例2〕10日のうち一部を法定の基準日より前倒しで付与した場合
Q.入社(4月1日)と同時に5日の有給休暇を付与し、7月1日に更に5日の有給休暇を付与した場合
A.付与された有給休暇が合計で10日に達した7月1日を基準日として、その日から1年以内に有給休暇を5日取得させる必要があります。ただし、入社時に一部前倒しで付与された有給休暇を基準日以前(4月1日~6月30日)に労働者が自ら請求・取得していた場合(計画年休も含む)には、その日数分を5日から控除します。
〔事例3〕入社した年と翌年で有給休暇の付与日が異なるため、5日の指定義務がかかる1年間の期間に重複が生じる場合(全社的に起算日を合わせるために、入社2年目以降の社員への付与日を統一する場合など)
Q.入社から半年後(10月1日)に10日以上の年次有給休暇を付与し、翌年度以降は全社的に起算日を統一するため、翌年4月1日に有給付与を付与する場合
A.①10月1日と翌年4月1日を起算日として、それぞれ1年以内に5日の有給休暇を取得させる必要があります。②または、管理を簡便にするため、10月1日(1年目の基準日)から翌々年3月31日(2年目の基準日から1年後)までの期間(18か月)に、7.5日(18か月÷12か月×5日)以上の有給休暇を取得させることも可能です。
まとめ
年次有給休暇の取得は、労働者の心身の疲労回復、生産性の向上など、労働者と使用者の双方にとってメリットがあります。働き方改革の一環として、年5日の有給休暇の取得も罰則付きで義務化されました。今一度、有給休暇の基本を整理し、自社に合った制度設計と適切な運用で、労働者の働きやすさと企業の信頼性向上につなげましょう。