「給与明細ってなにを記載すればいいの?」
「スムーズに給与明細を作成できるようになりたい」
「給与明細を作成する上で必要なものってある?」
人事労務担当者の方で、このような悩みを抱えていませんか?
給与明細の作成は重要な仕事のひとつであり、一方で煩雑な作業でもあります。
はじめて自分で給与明細を作成することになり、間違いなく作成できるか不安に思う人事労務担当者の方もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、給与明細の作成について次の内容を解説します。
- 給与明細に必要な項目
- 作成に要する資料
- 作成手順
- 効率的な作成方法
この記事を読むと、はじめてでもスムーズに給与明細を作成できるようになるので、ぜひ最後までご覧ください。
給与明細に記載する4つの項目
給与明細を作成する際には、次の4つの項目を記載します。
- 勤怠項目
- 支給項目
- 控除項目
- 差引支給額項目
それぞれどのような項目か、項目の内容を説明していきます。
①勤怠項目
出勤日数、労働時間、残業時間などの勤怠状況の詳細を示す項目です。
これにより、労働者がどれだけ働いたかが分かります。
- 出勤日数
- 有給日数
- 欠勤日数
- 労働時間
- 残業時間
- 休出日数
- 休出時間
- 深夜時間
②支給項目
基本給、残業代、手当など、労働者に支払われる全ての項目を明記します。
- 基本給
- 残業手当
- 休日手当
- 深夜手当
- 資格手当
- 通勤手当
- 住宅手当
- 総支給額
③控除項目
社会保険料、所得税、住民税など、給与から差し引かれる項目を示します。
これにより、控除前の総支給額から実際に手元に残る金額が、どれだけになるかが明確になります。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 社会保険料計
- 所得税
- 住民税
- 税額合計
- 控除合計
④差引支給額項目
支給項目から控除項目を差し引いた、最終的な支給額を表示します。
これが実際に従業員が受け取る金額となります。
給与明細の作成に必要な6つの書類
給与明細の作成には、主に次の書類が必要です。
- 勤怠情報を記録したもの
- 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
- 健康保険と厚生年金保険の保険料額表
- 雇用保険料率表
- 給与所得の源泉徴収税額表
- 住民税課税決定通知書
それぞれどの項目に必要なのか、どのような書類なのかを解説していきます。
①勤怠情報を記録したもの
これらは、勤怠項目を記入するための書類です。
正確な出勤日数や残業時間を把握するために、従業員の勤怠情報を記録したものが必要になります。
具体的には、出勤簿やタイムカードなどです。
②健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
保険料の計算基礎となる被保険者の標準報酬額を示している書類です。
事業主が4月〜6月の給料を基に提出した届書に基づいて、7月以降に日本年金機構から送付され、9月分保険料から適用されます。
③健康保険と厚生年金保険の保険料額表
健康保険料と厚生年金保険料を計算するための基準表です。
それぞれ次のサイトで確認できますが、必ず最新のものを使用してください。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 加入している各健康保険組合
- 日本年金機構
④雇用保険料率表
雇用保険料を計算するための表です。
厚生労働省や労働局のサイトで確認できます。
こちらも最新のもので確認してください。
⑤源泉徴収税額表
これは、給与から差し引かれる所得税額を計算するための基準表です。
国税庁のサイトで確認できますが、必ず最新のもので確認してください。
⑥住民税課税決定通知書
住民税の計算に必要な情報が記載されている通知書です。
毎年5月頃に自治体から送付され、1年分の住民税が記載されています。
給与明細の作成手順を10ステップで解説
ここからは、給与明細の作成手順を説明していきます。
まずは、出勤簿やタイムカード等を基に従業員の勤務時間を集計し、それを給与明細の「勤務項目」欄に記載します。
記載する内容は、一般的に次の通りです。
- 出勤日数
- 有給日数
- 欠勤日数
- 出勤時間
- 残業時間
- 休出日数
- 休出時間
- 深夜時間
該当する時間がなければ、空欄もしくは「0」とします。
ステップ①で集計した残業時間などを基に残業代などを計算します。
具体的な計算方法は、以下の通りです。
- 所定外残業手当の計算式
「時給×100%×所定外残業時間」 - 法定外残業手当の計算式
「時給×125%×法定外残業時間」
(法定外労働が60時間を超えた場合は150%) - 深夜割増賃金の計算式
「時給×25%×深夜時間」 - 休日労働手当の計算式
「時給×135%×休出時間」
※月給者の場合は月給を所定労働時間で割って時給金額を出す
ただし、企業によっては上記より高い割増率を設定している場合もあります。
具体的な割増率は各社の就業規則等をご確認ください。
残業代などの計算については、以下の記事で解説しています。
残業代などの計算が終わったら、各金額を「支給項目」に記載します。
ステップ①と同様に該当する残業代などがなければ、空欄もしくは「0」としてください。
基本給と、職務や役職、家族構成等に応じた各手当を計算し、それぞれを「支給項目」の欄に記載します。
基本給、残業代、各手当を合計した総支給額を計算して「支給項目」の欄に記載します。
欠勤、遅刻、早退などがあれば、その時間分の賃金を引きます。
続いて「控除項目」に記載する社会保険料を計算・記載します。
- 健康保険料の計算式
「標準報酬月額×健康保険料率÷2」 - 厚生年金保険料の計算式
「標準報酬月額×厚生年金保険料率÷2」 - 介護保険料の計算式
「標準報酬月額×介護保険料率÷2」 - 雇用保険料の計算式
「給与総額×雇用保険料率」
標準報酬月額は「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書」で確認します。
下記の表は2023年度の各保険料率です。
厚生年金保険料率以外は、毎年見直しが行われているので、間違えて違う年度の保険料率で計算しないように注意しましょう。
保険 | 保険料率 | 見直し予定 |
---|---|---|
健康保険 | 各都道府県によって異なります | 毎年3月から見直し |
厚生年金保険 | 18.3% | 2017年から見直しなし |
介護保険 | 1.82% | 毎年3月から見直し |
労働者負担 | 事業主分負担 | 雇用保険料率 | |
---|---|---|---|
一般 | 0.6% | 0.95% Ⓐ(0.6%) Ⓑ(0.35%) | 1.55% |
農林水産・清酒製造 | 0.7% | 1.05% Ⓐ(0.7%) Ⓑ(0.35%) | 1.75% |
建設 | 0.7% | 1.15% Ⓐ(0.7%) Ⓑ(0.45%) | 1.85% |
※Ⓑ雇用保険二事業の保険料率
所得税を記載するために、課税対象額を計算します。
課税対象額の計算式
「総支給額-非課税支給額-社会保険料の合計」
- 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
- 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
ステップ⑥で算出した課税対象額と、従業員の扶養親族等の数を「源泉徴収税額表」に当てはめて、源泉所得税額を確認・記載します。
なお、労働者が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を企業に提出していない場合は、「乙」の欄で源泉所得税を確認してください。
「住民税課税決定通知書」に記載された住民税を、そのまま給与明細の「控除項目」に記載します。
控除額を計算し「控除項目」に記載します。
控除額の計算式
「社会保険料の合計+所得税+住民税」
ステップ④で算出した「総支給額」から「控除額」を引いて、差引支給額を計算・記載します。
差引支給額の計算式
「総支給額-控除額」
これで、給与明細の作成は完了です。
効率的に給与明細を作成する2つの方法
効率的に給与明細を作成するためには、次の方法が有効です。
- 給与計算ソフトウェアの導入
- 社会保険労務士へ委託
それぞれの方法を解説します。
方法①:給与計算ソフトウェアの導入
給与明細の作成は、時間と労力を要する作業です。
また、誤りがあると労働者に不利益を与え、法的な問題を引き起こす可能性があります。
給与計算ソフトウェアは、これらの作業を自動化し、手作業で行うよりも高速で正確に給与明細を作成することができます。
方法②:社会保険労務士へ委託
給与計算の専門知識を持つ社会保険労務士に委託することで、法律の変更にも柔軟に対応でき、企業自身が行うよりも効率的に給与明細を作成できます。
飯田橋事務所も給与計算の業務を承っているので、興味がある方はお問い合わせください。
企業が給与明細を作成する2つの理由
企業が給与明細を作成する理由は、主に2つあります。
- 法律上の義務であるから
- 収入証明書類として必要だから
それぞれの理由を解説します。
理由①:法律上の義務であるから
法律に基づき、企業は労働者の給与の詳細を記載した明細書を作成・提出する義務があります。(所得税法第231条第1項)
これに違反した場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。
理由②:収入証明書類として必要だから
従業員個々の生活においても、給与明細は重要な役割を果たします。
住宅ローンの申請、子供の進学費用の補助申請など、経済活動を行う上で、収入を証明するための重要な書類となります。
給与明細は手書きで作成することも可能
給与明細を手書きで作成することは、法的に認められています。
しかし、手書きの給与明細は作成に時間がかかり、また人為的なミスが起こりやすいというデメリットがあります。
また、保管や検索も不便です。
一方、デジタルツールを使用すると、自動計算機能により計算ミスを防ぐことができ、作成や保管も効率的に行うことができます。
そのため、効率性や正確性、保管の便利さを考慮すると、手書きよりもデジタルツールを使用した方が好ましいです。
アルバイトにも給与明細を提供する必要がある
正社員だけでなく、アルバイトにも給与明細の提供は必要です。
先ほども触れたように、所得税法では労働者に対する給与の支払について「その明細を記載した書面」を交付することが義務付けられています。
これは、フルタイムの正社員だけでなく、アルバイトやパートタイムの労働者に対しても適用されます。
そのため、アルバイトにも給与明細は必ず作成・交付してください。
まとめ|流れを覚えれば給与明細の作成はスムーズになる
いかがでしたか?
この記事で、少しでも給与明細の作成に対する不安を拭えることができたら幸いです。
ご紹介した内容を参考にして、給与明細の作成を適切に行いましょう。
もしご不明な点などがありましたら、お気軽に飯田橋事務所にお問い合わせください。