ハラスメントの基礎知識_①対価型セクシュアルハラスメント、環境型セクシュアルハラスメントとは

“知らなかった”では済まされない、職場で起こるハラスメントを正しく理解しましょう!
ハラスメントに関する基礎知識を、数回にわたって解説していきます。

今回は、セクシュアルハラスメントの種類についてです。
職場で起こるセクシュアルハラスメントは、「対価型セクシュアルハラスメント」と「環境型セクシュアルハラスメント」の2つの類型に分けられます。この2つには、どのような違いがあるのでしょうか。

目次

1.セクシュアルハラスメントの定義

職場で起こるセクシュアルハラスメントは、このように定義づけられています。

職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けること・・・対価型セクシュアルハラスメント

・その性的な言動により就業環境が害されること・・・環境型セクシュアルハラスメント

定義の中にある“言葉”の意味を確認しましょう。

「職場」とは、どのような場所なのでしょうか…

職場とは、労働者が通常就業している場所だけではなく、
・出張先
・取引先の事務所
・業務で使用する車中
・打ち合わせや接待で使用する飲食店
・業務終了後の宴会や二次会(業務の延長と考えられるもの)
なども含まれます。

つまり業務を遂行する場所が、職場となるわけです。
在宅勤務の場合を考えてみて下さい。職務遂行中はプライベートである自宅が “職場”となります。
そのイメージで考えていただくとわかりやすいと思います。

「業務の延長と考えられるもの」かどうかは、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことなどを考慮して個別に判断されます。
社員同士での飲み会の2次会や3次会まで「業務の延長」と判断された判例もあります。

「労働者」とは、どのような人のことでしょうか…

この場合の労働者には、正社員だけではなく、契約社員、パートタイム労働者、アルバイト、派遣労働者など、雇用形態や契約期間、労働時間にかかわらず職場で働く全ての人が含まれます。

「性的な言動」とは…

性的な関心や欲求に基づく内容の発言や、性的な行動のことをいい、性別役割分担意識に基づく言動や、性的指向、性自認に関する偏見に基づくものも含まれます。

※性別役割分担意識:男女を問わず個人の能力等によって役割の分担を決めることが適当であるにも関わらず、男性、女性 という性別を理由として役割を分ける考え方のこと。

※性的指向:人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするかを表すものであり、具体的には、恋愛・性愛の対象が異性に向かう異性愛、同性に向かう同性愛、両性に向かう両性愛などを指します。

※性自認:自分がどの性別であるかの認識(体の性と心の性が一致する人もいれば、しない人もいます)のことをいいます。

性的な言動は、男性から女性へ行われるものに限らず、女性から男性、男性から男性、女性から女性に対して行われるものも対象になります。

性的な内容の発言例としては、
・性的な事実関係を尋ねる
・性的な内容の情報(噂)を流す
・性的な冗談やからかい
・下ネタを言う
・食事やデートへの執拗な誘い
・個人的な性的体験談を話す
・容姿をからかう 
などがあります。

2.対価型セクシュアルハラスメント

対価型セクシュアルハラスメントとは、「労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けること」です。

つまり、自分の意に反する性的な言動に対して拒否や抵抗をしたことにより、解雇や降給、配置転換など、労働条件に不利益な扱いを受けること、もしくは不利益な扱いをするぞと脅かされ、セクハラ行為を受けることをいいます。

対価型のセクハラ例としては、
・経営者から性的な関係を要求されたが、拒否したら解雇された。
・出張中の車中で上司から腰、胸などを触られたが、抵抗したため、通勤に2時間もかかる事業所に配置転換させられた。
などが挙げられます。

対価型セクシュアルハラスメントは、周囲に人がいないときや、密室で行われることが多く、一般的には、職場で優位な立場にいる人が、自分よりも立場が下の人・弱い人に対して行う“セクハラ行為”になります。これは、職場である程度の権限を持っている人(事業主や上司、先輩、取引先の担当者、OB訪問先の先輩、教育実習先の指導担当など)が、行為者になりやすいといえます。

3.環境型セクシュアルハラスメント

環境型セクシュアルハラスメントとは、「その性的な言動により就業環境が害されること」です。

つまり、自分の意に反する性的な言動が職場で起きていること(過去に起きたことも含む)によって、就業環境が不快なものになり、仕事に集中できず、能力が発揮できなくなったり、それが原因でメンタル不調に陥ったりすることをいいます。

環境型のセクハラ例としては、

  • 事務所内で上司が頻繁に肩や腰を触るので、また触られるかもしれないと思うと仕事が手に付かず就業意欲が低 下している。
  • 同僚が取引先でプライベートな交友関係の性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流したため、そのことが苦痛に感じられて仕事が手につかない。

などが挙げられます。

その他にも、
・酒席でお酌を強要する
・懇親会で女性が上司の隣に座ることを強要する
・休憩時に性的な内容の会話をする
・会社で使うPCのスクリーンセーバーをグラビアアイドルの水着姿画像に設定し、周囲にも見える状態になっている
などが考えられます。

環境型セクシュアルハラスメントの場合は、周囲に人がいるときに行われることも多いため、セクハラ行為を見聞きした周りの人も不快に感じることがあります。その場合は、直接の被害を受けた人だけではなく、見聞きした周りの人も被害者となりえます。

この“環境型セクシュアルハラスメント”は、“対価型セクシュアルハラスメント”とは異なり、立場の上下に関係なく誰もが行為者にも被害者になりうるセクハラといえます。

次回は、セクハラの判断基準について解説します。

執筆者

社会保険労務士・ハラスメント防止コンサルタント  栖原 圭子 

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