「男女の賃金の差異」の公表が義務化|計算方法や公表方法を解説

「うちの会社は『男女の賃金の差異』の公表が義務付けられてるのかな?」

「男女の賃金の差異ってどうやって計算するの?」

「どこで公表すればいいの?」

人事・労務担当者でこのような悩みを抱えていませんか?

女性活躍推進法の改正によって、2022年から条件に該当する企業は「男女の賃金の差異」情報の公表が義務付けられています。

日本では男女賃金格差が存在しているため、少しでも格差を解消することを目的に、この制度が設けられました。

しかし、制度が義務化されたとはいえ、賃金差異の計算方法や公表方法が分からずに、戸惑っている方も多いと思います。

そこで今回は、男女の賃金の差異について次の内容を解説します。

  • 公表時期
  • 計算方法
  • 公表方法

この記事を読むと、男女の賃金の差異をスムーズに公表できるようになるので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

目次

男女の賃金の差異|現状と背景

男女の賃金の差異|現状と背景

まずは、男女の賃金の差異が生じている現状と背景について、詳しく解説していきます。

男女賃金格差の実態とデータ

出典:女性活躍推進法のに基づく男女の賃金の差異の情報公表について|厚生労働省

男女賃金格差は依然として存在し、女性は男性よりも平均賃金が低い傾向にあります。

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、2021年の日本の男女賃金格差は22.1%であり、先進国の中でも特に高い水準であることが判明しました。

一般的に、女性が男性よりも低い役職や非正規雇用で働く割合が高いことが、賃金格差の原因の一つとされています。

この問題に対処するための取り組みが、政府や企業に求められています。

男女賃金格差の背景と問題点

日本では女性が子育てや介護を担うことが多く、キャリアの中断や時短勤務が賃金格差の要因となっています。

2022年に厚生労働省が公表したデータによると、女性の育児休業取得率は85.1%なのに対し、男性の取得率は13.97%です。

男性の育休取得率は年々増加していますが、依然として女性の方が圧倒的に取得率が高いままです。

こうした性別で役割分担をする意識が、男女賃金格差を生み出していると考えられます。

男女の賃金の差異を公表することが2022年から義務化

男女の賃金の差異を公表することが2022年から義務化

女性活躍推進法の改正により、2022年から常時雇用する労働者が301人以上の企業は、男女の賃金の差異を公表することが義務付けられました。

男女の賃金の差異を公表することで、企業の労働環境が透明化され、賃金格差の解消が促されることを目的としています。

女性活躍推進法とは?

女性活躍推進法は、仕事で活躍したいと希望する全ての女性が個性・能力を発揮できる社会を実現するために制定された法律です。

政府や自治体、民間企業などに対して、女性の活躍に向けた情報公表を義務付けています。

公表する情報項目

法律の改正前から、常時雇用する労働者が301人以上の企業は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する実績を1項目公表する義務がありました。

それらの情報公表項目に加えて、2022年から男女の賃金の差異も公表することが義務付けられました。

つまり、2022年から「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する実績は、計2項目公表する必要があります。

女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
以下の1~8項目の1項目選択+男女の賃金の差異(必須)※新設
  1. 採用した労働者に占める女性労働者の割合
  2. 男女別の採用における競争倍率
  3. 労働者に占める女性労働者の割合
  4. 係長級にある者に占める女性労働者の割合
  5. 管理職に占める女性労働者の割合
  6. 役員に占める女性の割合
  7. 男女別の職種または雇用形態の転換実績
  8. 男女別の再雇用または中途採用の実績
  9. 男女の賃金の差異(必須)※新設

公表時期

男女の賃金の差異は、各事業年度が終了し、新たな事業年度が開始しておおよそ3ヶ月以内に公表する必要があります。

公表時期の例

例①:事業年度が9月~翌年8月の場合は「おおよそ11月末まで」

例②:事業年度が5月~翌年4月の場合は「おおよそ7月末まで」

計算方法

男女の賃金の差異は、男性労働者の平均年間賃金に対する女性労働者の平均年間賃金を、割合で算出します。

STEP
全労働者を男女、正規、非正規で分類する

まずは、全労働者を性別、雇用形態で分類します。

スクロールできます
女性男性
正規労働者女性・正規男性・正規
非正規労働者女性・非正規男性・非正規
分類する際のポイント
正規労働者

期間の定めなくフルタイム勤務する労働者

非正規労働者

パートタイム労働者及び有期労働者

パートタイム労働者

1週間の所定労働時間が、同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規労働者)に比べて短い労働者

有期労働者

事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者

STEP
それぞれの総賃金、人員数を算出する

次に、区分した労働者の総賃金、人員数を算出します。

総賃金は、源泉徴収簿を用いて算出してください。

スクロールできます
女性男性
正規労働者女性・正規
(総賃金・人員数)
男性・正規
(総賃金・人員数)
非正規労働者女性・非正規
(総賃金・人員数)
男性・非正規
(総賃金・人員数)
STEP
それぞれの平均年間賃金を算出する

②で算出した総賃金を人員数で除算して、平均年間賃金を算出します。

計算式

平均年間賃金=(総賃金÷人員数)

スクロールできます
女性男性
正規労働者女性・正規
(総賃金÷人員数)

平均年間賃金①
男性・正規
(総賃金÷人員数)

平均年間賃金②
非正規労働者女性・非正規
(総賃金÷人員数)

平均年間賃金③
男性・非正規
(総賃金÷人員数)

平均年間賃金④
STEP
全ての労働者の平均年間賃金を、男女別に算出する

続いて、全労働者の平均年間賃金を、男女別に算出します。

スクロールできます
女性男性
正規労働者総賃金A÷人員数B

平均年間賃金①
総賃金C÷人員数D

平均年間賃金②
非正規労働者総賃金E÷人員数F

平均年間賃金③
総賃金G÷人員数H

平均年間賃金④
全労働者総賃金(A+E)÷人員数(B+F)

平均年間賃金⑤
総賃金(C+G)÷人員数(D+H)

平均年間賃金⑥
STEP
正規、非正規、全労働者の区分ごとに、男女の賃金の差異を算出する

最後に、労働者の区分ごとに男女の賃金の差異を算出します。

スクロールできます
女性男性
正規労働者平均年間賃金①平均年間賃金②
非正規労働者平均年間賃金③平均年間賃金④
全労働者平均年間賃金⑤平均年間賃金⑥
  • 正規雇用の男女の賃金の差異=①÷②×100%
  • 非正規雇用の男女の賃金の差異=③÷④×100%
  • 全労働者の男女の賃金の差異=⑤÷⑥×100%

算出した割合は小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで表示してください。

これで、賃金差異の計算は完了です。

厚生労働省が提供している「男女間賃金格差分析ツール」をダウンロードすると、実態調査票のデータを入力できて、算出が効率的になります。

『男女の賃金の差異』に係る情報公表について|厚生労働省

公表方法

算出した男女の賃金の差異は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」で公表します。

もしくは、自社のホームページで公表しても問題ありません。

公表する際は「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」と区分して公表してください。

「男女の賃金の差異」の情報公表イメージ
区分男女の賃金の差異
全労働者〇〇.〇%
正規雇用労働者△△.△%
非正規雇用労働者□□.□%
※該当者が存在しない区分については「-」とすること

また、付記事項には算出の前提として重要な事項を記載することが必要です。

「対象期間」「対象労働者の範囲」「賃金の範囲」等を記載します。

付記事項(例)
  • 対象期間:〇〇事業年度(〇〇年〇月〇日~〇〇年〇月〇日)
  • 正社員:社外への出向者を除く
  • パート・有期社員:パート、アルバイト、契約社員を含み、派遣社員を除く
  • 賃金:通勤手当等を除く

公表を行わなかった場合の罰則

情報公表を行わなかったことに関する罰則は、明確に定められていません。

ただし、厚生労働大臣から求められた報告を怠った、または虚偽の報告をした場合、20万円以下の罰金が科せられます。

企業の事例紹介

出典:男女の賃金の差異の情報公表に関する企業の事例紹介|厚生労働省

厚生労働省では、男女の賃金の差異の情報公表をしている企業の好事例を紹介しています。

自社で情報公表をする際の参考にしてください。

まとめ|男女の賃金の差異を明確にして、賃金格差を減らそう

まとめ|男女の賃金の差異を明確にして、賃金格差を減らそう

最後に、本記事の内容を質問形式でおさらいしましょう。

どんな企業が男女の賃金の差異を公表することが義務付けられてるの?

常時雇用する労働者が301人以上いる企業です。

男女の賃金の差異はどこで公表すればいいの?

厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」か、自社のホームページに公表してください。

男女の賃金の差異はどうやって計算するの?

以下の流れで計算します。

  1. 全労働者を男女、正規、非正規で分類する
  2. それぞれの総賃金、人員数を算出する
  3. それぞれの平均年間賃金を算出する
  4. 全労働者の平均年間賃金を、男女別に算出する
  5. 全労働者、正規、非正規ごとに、男女の賃金の差異を算出する

男女の賃金の差異を明らかにすることで、自社が女性労働者にとって働きやすい環境か見直すことができます。

義務の有無に関係なく、企業は男女の賃金の差異を算出して、資金格差を減らすように努めましょう。

また、「他の業務も立て込んでるから、計算に時間がとれない…」という場合は、ぜひ飯田橋事務所にご相談ください。

人事労務の実務に習熟した当事務所の専門職員が、賃金差異の計算を代行させて頂きます。

他にも、情報公表についてご不明な点がありましたらサポートいたしますので、いつでもお気軽にご相談ください。

目次