みなし労働時間制 (2)専門業務型裁量労働制

働き方改革の波は、大企業だけではなく、中小企業にも押し寄せてきています。

過労死や、残業代未払いなどを防止するために、「労働時間」というものがかつてないほどにクローズアップされています。

しかし、仕事の中には、労働時間だけでははかれない業務もあります。

こうした働き方に則した方法の一つに、「専門業務型裁量労働制」があります。

専門業務型裁量労働制は、従来の労働時間=賃金、というよりはむしろ、どれだけ効率的に働いたか、というところに成果の重きを置く制度です。

使い方によっては、従業員にとっても、会社にとってもウィンウィンな働き方ができる一方で、その導入に際しては複雑、煩雑と思われる方も多いかもしれません。

ここでは、専門業務型裁量労働制の導入にあたり、その基本的な内容と注意点について、説明をしていきたいと思います。

目次

専門業務型裁量労働制とは

1.専門業務型裁量労働制とは

従来の日本の働き方の多くは、出退勤の時間が決まっていて、残業をすればその時間の賃金を払う、というのが原則です。

これに対し、専門業務型裁量労働制は、出退勤の時間はその労働者に委ね、その成果に対して賃金を払うという、全く正反対のものとなります。

では、労働時間に対しての考え方はどうなるのか、ということですが、これは1日のみなし労働時間を設定することによって、労働時間が決まってきます。

例えば、1日9時間をみなし労働時間と決めれば、労働者が実際に1日5時間働こうが、12時間働こうが、9時間働いたものとみなされるのです。

専門業務型裁量労働制の対象業務(法令で定める19業種)

2.専門業務型裁量労働制の対象業務(法令で定める19業種)

なぜ、このように労働者に労働時間の裁量を与えるのか、と言うことですが、業務の性質上、その遂行の手段や時間の配分などに関し、使用者が具体的な指示をださないでしたほうが効率が良い業務であるからなのです。

つまり、この制度をとるためには、そうした業務であることが必要であり、その業務については、対象業務として以下の19業種が法令で定められています。

① 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務

② 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わ

 された体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。⑦において同じ。)の分析

 又は設計の業務

③ 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年

 法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の

 規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しく

 は有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレ

 ビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは

 編集の業務

④ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務

⑤ 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務

⑥ 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピー

 ライターの業務)

⑦ 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するため

 の方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)

⑧ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆる

 インテリアコーディネーターの業務)

⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務

⑩ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく

 投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)

⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

⑫ 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として

 研究に従事するものに限る。)

⑬ 公認会計士の業務

⑭ 弁護士の業務

⑮ 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務

⑯ 不動産鑑定士の業務

⑰ 弁理士の業務

⑱ 税理士の業務

⑲ 中小企業診断士の業務

健康・福祉確保措置と苦情処理措置

3.健康・福祉確保措置と苦情処理措置

労働者に大幅な裁量が与えられるとはいえ、会社に労働時間(在社時間)の把握をしなくてよい、と言っているわけではありません。裁量があるがゆえ、いつまでも会社に残って健康を害することもあるかもしれません。そういった場合、残業手当の支払いはなかったとしても、会社に課された安全管理義務違反を問われる可能性が高いのです。

そのため、対象労働者の勤務状況や健康状態を把握すること、そのための措置を行うことが必要となってきます。それとともに、働き方が柔軟であるがゆえの苦情もあります。苦情処理のための相談窓口を設置するなど、申し出をしやすい仕組みづくりが必要です。

また、こうした労働時間の状況、健康・福祉確保措置の状況、苦情処理措置の状況は労使協定の有効期間中と有効期間満了後3年間保存しなければなりません。

就業規則への規定、労使協定の締結

4.就業規則への規定、労使協定の締結

従来に比べ、柔軟な働き方をとることができるものの安全管理面等での弊害も起こりうる可能性があることもあり、専門業務型裁量労働制を採用するには、就業規則に定めることと、その具体的内容として以下の事項を締結し、労働者に周知してその労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。

 

①    対象業務(法令に定められた19業種)

②    みなし労働時間(対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間)

③    対象業務を遂行する手段及び時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する労働者に具体的

  指示をしないこと

④    対象業務に従事する労働者の労働時間の状況の把握方法と把握した労働時間の状況に応じて

  実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容

⑤    対象業務に従事する労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容

⑥    有効期間(3年以内にすることが望ましい。)

⑦    上記④及び⑤に関し、把握した労働時間の状況と講じた健康・福祉確保措置及び苦情処理

  措置の記録を協定の有効期間中及びその期間の満了後3年間保管すること

⑧    時間外・休憩時間・休日労働・深夜業(これらの事項の取り扱いについては、就業規則に

  おいて定めれば足りるものですが、専門業務型裁量労働制の対象労働者についてその他の

  労働者と異なる取り扱いとする場合等は、これらについても労使協定で規定しておくこと

  も可能です。)

注意点

5.注意点

(1)   みなし労働時間と実際の労働時間との差異

専門業務型裁量労働制を採用する際には、みなし労働時間を設定して届け出なくてはなりませんが、はじめにいったように、いくら働いてもみなし労働時間働いたこととなるので、残業代を別途計算する手間はありません。そのため、専門業務型裁量労働制は、「残業の温床」、と言われることもあります。

しかし、あまりにもみなし労働時間と実労働時間がかけ離れていると、それ自体が違法、とされる可能性が高いですし、安全管理面でも違法とされ安全管理義務違反とされてしまうこともあります。調査を受けやすい事項ですので、その業務は実際にどれくらいかかるものなのか、労働者に負担がかかりすぎるほどに業務分担がされていないかを常に確認していく必要があります。

(2)   深夜、休日残業の支払い

みなし労働時間が設定されているからと言って、いくら働かせてもまったく払わなくてもいいわけではありません。

まず、所定労働時間をオーバーしたみなし労働時間を設定している場合は、所定を超えた分の時間の賃金を、法定労働時間をオーバーしたみなし労働時間を設定している場合はさらに法外残業に当たる時間の賃金を月額の中で設定する必要があります。

また、専門業務型裁量労働制は労使協定で定めた所定日にみなしの制度が使えるので、それ以外の休日出勤があった場合、また所定日でも深夜に及ぶ場合は別途、休日手当や深夜手当を支払う必要があります。

(3)   実際に出退勤の時間を決めていたり、業務の遂行や時間配分の裁量がない

対象業務に該当していたとしても、運用実態として、出退勤の時間を決めていたり、上司の指示を受けて業務をしていたり、といった場合は専門業務型裁量労働制にあたりません。労働者から、裁量がないのに専門業務型裁量労働制で働かされている、といった監督署への訴えがされることもありますので、業務内容をしっかりと把握するようにしましょう。

特に注意したいのは、採用をしたばかりの労働者に専門業務型裁量労働制を適用する場合です。中途採用で、初めから自分の裁量でできる場合はよいのですが、新卒採用や経験の浅い労働者を採用する場合は、まだ自分の裁量で仕事ができないため、専門業務型裁量労働制から始めると調査での指摘事項になります。自らの裁量でできるようになってから、対象者に含めるようにしましょう。

(4)   フレックスタイム制との違い

出退勤の時間が労働者に委ねられている、ということから、フレックスタイム制と混同されるかたもいらっしゃいます。

フレックスタイム制は決められた期間内での総労働時間が決まっていて、その中で時間の融通をきかせて最終的にその時間をクリアする、といったように実労働時間で賃金を決定させる制度です。似ているようにみえても、根本として全く違う制度なので、気を付けましょう。

まとめ

6.まとめ

専門業務型裁量労働制は、昨今の働き方改革を推進する流れの中で、効率性の面からすれば、非常に効率の良い制度です。一方で、安全管理面の面からすると非常に危険性を持つ制度にもなりかねません。

制度の正しい理解と、メリット、デメリットをしっかりと把握したうえで、常日頃から労働実態をチェックして運用することで、会社にとっても、労働者にとっても最大の効果が表れることでしょう。

専門業務型の対象業務であるかどうか、運用に関する注意点を確認したい、などのご相談は、

ぜひ、当事務所事務所相談会をご利用ください。

次回は、「企画業務型裁量労働制」について説明します。

この記事を書いた人

社会保険労務士 Suzuki

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