やらずに済めばやりたくない!?育児介護休業法の改定に伴う、育児介護休業規程の改定

2022年は、4月と10月に、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)の改正があり、多くの会社様が改正対応のため、「育児介護休業規程」の改定に取り組まれたのではないでしょうか。

本記事は、社労士として、顧問先様の規程改定に携わる中でふと思った「そもそも、法改正に合わせての規程改定は必要なのか?」という一見不真面目な疑問について、記載したものです。

※労基法的には、育児介護休業規程という名称の規程を作る義務はありません(育児介護休業について規定されている就業規則の作成が義務です。)が、分量も多くなり利用可能性・改定時の手間の観点から、一般的には就業規則に入れ込まないで、別規程とするものです。

目次

1. 法改正があると、なぜ就業規則の改定をするのか

労働基準法第89条に、就業規則作成の決まりがあるから。
というのは簡単ですが、実際のところは、
法律を下回る基準の就業規則は無効であり、実態と乖離した規程は使いにくいし見栄えが悪いから
というのが理由でしょう。
なお、育児・介護休業の内容が記載された規程は、労働基準法第89条のうち、少なくとも強調箇所に該当するため、作成義務があります。

「第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」
~
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、
これに関する事項

2.法律通りの内容なのに

育児介護休業規程については、こと中小企業においては、「従前の法律通り」の内容だったものを、「改正後の法律通り」の内容に変えているケースがほとんどなのではないでしょうか。
厚生労働省の出しているモデル育児介護休業規程、文面の参考によく使われるものですが、「第〇条の第〇項を参照」という記載に代表される、非常に読みづらいものとなっています。
法律通りの内容を規程にしておきたいだけなのに、既存規程改定の場合、改正後に対応した文言、それを入れ込む場所、参照する条文番号、会社独自の言い回し、法律で定まっていない会社で定めることを、新規程に入れ忘れないように行うことになります。
ここまでして作ったところで、基本は法律通りの内容なので、個人的には、なんて無駄な時間だろうと正直思います。

厚生労働省 育児・介護休業等に関する規則の規定例

3. 法改正対応を最小限にするためにはどうすればいいか

さて、いくら法律通りの内容とはいえ、労働基準法で、作成の義務が定められているものを作成しないというわけにはいきませんので、作ることは作りましょう。ただ、どうにかして、改正ごとに規程を改定するという作業の手間を減らすことはできないでしょうか。
就業規則は、会社の公式ルールであり、従業員に守って欲しいこと・従業員の権利について、ある種の約款として書かれており、事務担当者からすれば判断基準にもなるという大切なものです。
という話はいったん忘れて、思いついたのが以下のアイディアです。
単純ではありますが、各条文について、下記のようにするものです。
「〇〇については、××法の定めに基づいて、取り扱うものとする。」
〇〇:育児休業・育児休業の申出等
××:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
これなら、少なくとも、新規で内容が加わらない限り(10月の改正で言えば、出生時育児休業の創設)、改定内容の作成・社内承認・従業員代表の意見聴取・各事業場管轄労基署への届出について、省略できます。
定めをしているので、法律を守るという視点からは守っていると言えますし、複数の労基署に確認したところ、「法律の定めに基づいて取り扱うという規定では、具体的な内容が分からないということもあり、望ましいとは言えないが、その内容でダメとは言えず、届出された場合には受付する。」というのが共通した見解でした。
ただし、筆者の個人的な意見であって、弊所を代表する意見ではないものです。

厚生労働省の、モデル育児介護休業規程(簡易版)の、第2条育児休業を例にすると、下記のようになります。

第2条 育児休業
育児休業については、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)の定めに基づいて、取り扱うものとする。

この場合の注意点は下記のとおりです。
①先ほど挙げた、法律で定まっていない会社で定めること(適用除外者、育休期間の有休・無給の別、短時間勤務の場合の始業・終業時間など)についての記載が必要。
②〇〇法の定めに~では、具体的な内容については分かりませんから、規程とは別に、使う書式・申請方法・利用条件などが記載された案内を用意しておくことが必要。
③依拠する法律が改正された場合で、改正後の法律の内容が、従前の法律より労働者に対して不利益な内容となった場合には、単純に適用すると労働条件の不利益変更となってしまうことがあり得ます。(ちょっと考えにくいですが)

自社の対応能力から鑑みて、法改正に伴う就業規則改定に取り組みましょう。

執筆者

社会保険労務士  永井 健太郎 

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