【ポストコロナ時代の労務管理】労働生産性向上の鍵は「人間信頼論」にある!?

 新型コロナウィルス感染拡大に伴い、在宅勤務を行う企業が増えています。在宅勤務の場合、「本当に仕事をしているのか分からない」「人事評価がしにくい」などの声が聞こえてきます。見えないものを見えるようにしようと企業は知恵を絞って取り組んでいます。中にはノートPCのカメラを常時接続して、PCの前で仕事をしていることを確認できるようにしようとする取り組みもあるようです。

 在宅勤務においても労働生産性の向上が課題としてあります。様々な方法論が先行しているように思われる中、今回は改めてあるべき労務管理の姿について考えたいと思います。

 経営心理学者マグレガーの『XY理論』はご存じの方も多いのではないでしょうか。X理論とY理論について、平木典子『新・カウンセリングの話』朝日新聞出版(2020)より一部抜粋して紹介したいと思います。

労働の生産性には人間的側面が深くかかわっていて、その人間観が経営にも影響を与えるというものである。

X理論は、伝統的な経営の根底にあるとされる「人間なまけ者論」に立つ考え方で、人間は本来、労働が嫌いで、責任をとりたがらず、できるだけ楽をしようとする自己中心的な存在ととらえる。

・・・(中略)・・・

X理論を基にした人間観をもつ人は、人への対応が監視的・命令的になる傾向をもつだろう。

Y理論は、逆に「人間信頼論」で、その人間観は、人間は先天的に課題を解決したり、アイデアを練ったりして働くことが好きであり、遊びと同じように労働もごく自然のものだと考える。

・・・(中略)・・・

つまり、人間は周囲から邪魔が入らないかぎり、成長しようと自然の力を発揮するように、労働の場でも同様の労働力を発揮すると考える。

・・・(中略)・・・

人間にはそもそも、成長したり想像したり働いたりする意欲が備わっており、その意欲が自然に発揮できるような状況に人々が身を置けることが大切だと考えるのである。

・・・(中略)・・・

マグレガーは「人間信頼論」の経営を強調していたが、このような考え方のどちらの立場をとるかによって、人間への接し方が変わることは想像に難くない。

 経営に関わらず、人と人の関係において大切なのは、その人がもつ人間観なのではないかと思います。どのような人間観をもって人と接するかは、相手の考え方や行動に影響を与えます。

 私は、このところの在宅勤務の可視化の取り組みについて、目に見えないものを(なんとしてでも)見ようとすることを目的としているようで、そこに違和感を抱かずにはいられません。相手を監視するような労務管理で、果たして労働生産性を上げることはできるのでしょうか。もし、会社が監視的なスタンスをとれば、従業員は仕事をしているように見せるための「アピール」に意識を向けることでしょう(無意識でもなんらかの力が作用するのではないかと思われます)。自分のとる態度やスタンスが相手を拘束するということを肝に銘じておく必要があります。

 また、人事評価制度は生産性を上げるためのツール(手段)にすぎず、それ自体が目的となってしまっては本末転倒です。在宅勤務で人事評価制度が注目を集めているようですが、どのように作るかではなく、何のために必要かということを改めてよく考える必要があると思います。

 見ようと心がけるべきものは相手の心であり、そのためにはコミュニケーションが欠かせないわけですが、それは信頼がベースになければ成り立ちません。コロナをきっかけに新たな働き方が模索され、働く人の価値観も大きく変化しています。いまこそマグレガーの「人間信頼論」の人間観に基づいた働き方改革が必要なのではないでしょうか。

【参考文献】
平木典子『新・カウンセリングの話』 朝日新聞出版(2020年)

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