不利益変更禁止の原則とは|やむなく不利益変更するときの3つの方法

「不利益変更禁止の原則ってなに?」

「どういったケースが不利益変更に該当するの?」

「会社の事情でどうしても労働条件を変更しなきゃいけないとき、どう対応すればいい?」

人事・労務担当者の方でこのような悩みを抱えていませんか?

不利益変更禁止の原則とは、従業員の合意なく労働条件を不利益に変更することを禁じることです。

会社の事情とは言え、賃金や休日が少なくなることは従業員にとって喜ばしいことではありません。

それに重ねて誤った方法で不利益変更を進めれば、場合によっては労使紛争につながる恐れもあります。

大きなトラブルに発展しないように、本記事では労働条件変更の方法を解説します。

労働条件の変更を検討されている方は、ぜひ最後までご覧になって参考にしてください。

目次

不利益変更禁止の原則とは?

不利益変更禁止の原則とは?

不利益変更禁止の原則とは、従業員の合意なく労働条件を不利益に変更することを禁じることです。

賃金の減額や福利厚生の廃止など、労働条件が従業員にとって不利益な方向に変更する場合、原則として従業員の合意を得てから行わなくてはいけません。

労働条件の不利益変更については、労働契約法第8条で定められています。

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

引用:労働契約法第8条

不利益変更の具体例

不利益変更に該当するケースの一例は、ご覧の通りです。

必ずしも「該当する/しない」と明確に区分されるわけではなく、変更内容や程度に応じて個別具体的に判断されます。

スクロールできます
該当するケース該当しないケース
賃金・減額(就業規則に減額の可能性が規定されていない)・減額(減額の可能性が就業規則に規定されている)
・懲戒処分としての減額
手当・役職や評価は変わらずに減額・人事異動、人事評価による減額
退職金・同意を得ずに減額
・代替措置を設けずに減額
・同意を得ての減額
・代替措置を設けての減額
休日・年間休日を減らす
・有給休暇を減らす
・これまで休日だったお盆や年末年始を有給休暇として取り扱う
・年間休日は増えるが、賃金は変更しない(もしくは増額する)
労働時間・労働時間の増加(賃金はそのまま、又は減額)・労働時間の増加(賃金は増額)
・始業時刻、終業時刻を1時間ほどずらす
雇用形態・同意なく一方的な変更・従業員の意思で変更
異動・出向・従業員の不利益が大きい異動、出向・労働条件が変化しない異動、出向
・業務上の必要性が高い異動、出向
懲戒事由・同意なく一方的な追加・同意を得ての追加

不利益変更による罰則

従業員の同意なく不利益変更しても、企業に罰則は科せられません。

しかし、不利益を受けた従業員から訴訟を起こされて、損害賠償の支払いを命じられる恐れがあります。

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不利益変更を進める3つの方法

不利益変更を進める3つの方法

会社を存続させるためやむを得ず不利益変更する場合は、どのように行えばいいのでしょうか。

方法は主に3つあります。

  1. 従業員の同意を得て不利益変更する
  2. 就業規則を変更して不利益変更する
  3. 労働組合と労働協約を結んで不利益変更する

それぞれの方法を解説していきます。

方法①:従業員の個別同意を得て不利益変更する

方法①:従業員の個別同意を得て不利益変更する

1つ目は、従業員の同意による方法です。

しっかりと従業員に説明をして合意を得られれば、後からトラブルになるリスクを最小限に抑えられます。

同意による不利益変更の進め方は、下記の通りです。

①就業規則の変更に関する原案を作成

まずは、就業規則の変更に関する原案を作成します。

作成する際は、次のポイントを確認しながら進めてください。

  • 変更の対象となる従業員
  • 変更内容の合理性
  • 従業員が受ける不利益の程度

不利益変更を行うには「認めるに足りる合理的な理由」がきちんと存在しているかが重要になります。

「これは合理的な理由なのか…?」と判断が難しい場合は、弁護士や社労士に客観的に判断してもらうことをおすすめします。

②従業員向けの説明会の実施及び個別面談

原案が完成したら、従業員向けの説明会の実施及び個別面談を行います。

その際には、不利益変更について詳しく説明しましょう。

  • 不利益変更の具体的な内容
  • 不利益変更を行う理由
  • 従業員が受ける不利益の程度
  • 代替措置(従業員の不利益が大きい場合)

これらの項目を十分に説明して、従業員の理解を得るように行ってください。

くれぐれも、同意を強要するような威圧的な態度をとってはいけません。

③同意書の取り付け

面談で従業員からの理解を得られたら、個別で同意書を記入してもらいます。

後から従業員が「自分は同意していない」と訴訟を起こしたときに証明できなければ、同意を得ていない違法な不利益変更と判断される可能性が高いです。

署名してもらった同意書は、きちんと保管しておきましょう。

④就業規則の変更・届出

従業員からの同意を得られたら、不利益変更する就業規則の事項を変更します。

変更後は、労働基準監督署に届け出るための準備を行ってください。

日常的に従業員が10人以上いる会社は、就業規則を変更した際に届出が義務付けられています。

届出には、次の書類を準備してください。

  • 変更した就業規則(2部)
  • 従業員代表から聴取した意見書(2部)
  • 就業規則届(1部)

意見書と就業規則届は、労働局のサイトでダウンロードできます。

書類が準備できたら、管轄の労働基準監督署に届け出てください。

就業規則と意見書は、受付印が押印されて1部ずつ返却されます。

控えとして社内で保管してください。

⑤就業規則の周知

最後は、全従業員に就業規則を周知してください。

周知によって変更後の就業規則が有効となります。

主に次の方法があります。

  • 社内の見えやすい場所に掲示する、または備え付ける
  • 書面にして従業員に交付する
  • パソコンやスマホなどでデータ共有する

就業規則の届出だけでなく、就業規則の周知も義務付けられています。

周知義務を怠った企業には、30万円以下の罰金が科せられます。

また、労働基準監督署から是正勧告を受けることもあるので忘れずに行いましょう。

方法②:就業規則を変更して不利益変更する

方法②:就業規則を変更して不利益変更する

従業員から同意を得られない場合、就業規則を変更して不利益変更するという方法があります。

ただしこの方法が認められるには、3つの条件を満たす必要があります。

方法②に必要な3つの条件
  1. 労働条件の変更内容が法令・労働協約に違反していない
  2. 労働条件の変更理由に合理性がある
  3. 変更後の就業規則を全従業員に周知する

これらの条件を満たした場合、労働契約法第10条に基づいて不利益変更を行うことができます。

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

引用:労働契約法第10条

ただ、この方法はかなりのリスクを伴います。

合理的な理由があっても、合意なく不利益変更すれば従業員は不満に思うでしょう。

モチベーションが下がったり、場合によっては労使トラブルに発展する恐れがあります。

この方法を選択せざるを得ない状況になったときは、一度弁護士や社労士によく相談してから決定しましょう。

方法③:労働組合と労働協約を結んで不利益変更する

方法③:労働組合と労働協約を結んで不利益変更する

続いては、労働組合との労働協約の締結による方法です。

会社に労働組合がある場合、組合との間で労働協約を結べば、従業員からの個別同意がなくても不利益変更が認められます。

けれど、不利益変更が有効になるのは「組合員」との間だけです。

非組合員に効力は及びません。

組合に加入していない労働者にも不利益変更を有効にするには、個別に同意を得る必要があります。

ただし、企業の労働者の3/4以上が労働組合に加入している場合、企業との間で労使協約を締結すると、非組合員にも効力が発生します。

この方法による不利益変更の進め方は、下記の通りです。

方法③による不利益変更の進め方
  1. 就業規則の変更に関する原案を作成する
  2. 労働組合と協議する
  3. 労働協約を締結する
  4. 就業規則を変更・届け出る
  5. 就業規則を周知する

「労働組合との協議」「労働協約の締結」以外は、方法①と変わりありません。

労働協約を結ぶには、書面に合意内容を記して、企業と労働組合が署名または押印する必要があります。

たとえ労働組合との間で合意に至っても、書面が作成されなければ効力は発生しません。

忘れずに作成しましょう。

なお、労働協約は労働基準監督署へ届出する必要はありません。

まとめ|不利益変更を行うときは社労士に相談しよう

まとめ|不利益変更を行うときは社労士に相談しよう

最後に、本記事のおさらいをしましょう。

本記事のおさらい
不利益変更禁止の原則とは

従業員や労働組合の合意なく、労働条件を不利益に変更することを禁じる原則のこと。

不利益変更を行う方法
  • 従業員の同意を得て不利益変更する
  • 就業規則を変更して不利益変更する
  • 労働組合と労働協約を結んで不利益変更する

今回は不利益変更を行う方法をメインに解説しました。

けれど不利益変更には、従業員からの信頼を失ったり労使紛争に発展するリスクがあります。

最終的に「働きにくい職場」と判断されて、離職を促してしまう可能性も否定できません。

少しでもリスクを減らすために、不利益変更を行う場合は飯田橋事務所にご相談ください。

人事労務の分野に精通した専門職員が、後のトラブルに繋がらないよう労働条件の変更をサポートいたします。

ご不明な点などがありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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