A. 定期健康診断の受診は法律上の義務であり、会社は業務命令として受診を命じることができます。正当な理由なく拒否を続ける場合は、就業規則に基づく懲戒処分も可能です。ただし、いきなり処分するのではなく、①受診勧奨、②書面での業務命令、③処分の検討、という段階的な対応が基本です。
健康診断は「会社の義務」であり「社員の義務」でもある
労働安全衛生法第66条により、会社には常時使用する労働者に対して年1回の定期健康診断を実施する義務があります。
これを怠ると、会社は50万円以下の罰金の対象になります(労働安全衛生法第120条)。
また、同法第66条第5項により、労働者にも健康診断を受診する義務が定められています。
つまり「受ける・受けないは本人の自由」ではありません。
唯一の例外は、会社が指定した医師または歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師による健康診断を受け、その結果を証明する書面を提出する場合です(医師選択の自由)。
この場合、会社指定の定期健康診断を拒否しても義務違反にはなりません。
会社はどこまで受診を強制できるのか
会社は業務命令として、従業員に定期健康診断の受診を命じることができます。
過去の判例(愛知県教育委員会事件・最高裁昭和61年3月13日)でも、就業規則等に基づく健康診断の受診命令は有効とされています。
正当な理由なく受診命令を拒否し続ける場合は、就業規則の規定に基づき、懲戒処分を行うことも可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 段階を踏むこと:いきなり重い処分をすると、処分の有効性が争われるリスクがある
- 就業規則の根拠を確認すること:健康診断の受診義務や懲戒事由が就業規則に明記されているか確認
- 医師選択の自由に配慮すること:本人が他の医師の健診結果を提出する意向であれば、それを認める必要がある
物理的に受診を強制する(無理やり病院へ連れて行く)ことはできません。
あくまで業務命令と懲戒処分による対応が限度です。
定期健康診断受診拒否者への具体的な対応の流れ
実務上は、次の流れで対応するのが安全です。
- 受診しない理由を本人に確認する
(多忙、健診への不安、プライバシーへの懸念など) - 受診は法律上の義務であること、会社にも実施義務があることを丁寧に説明し、受診を勧奨する
- 日程調整や別日程の健診機関の案内など、受診しやすい環境を整える
- それでも拒否する場合は、書面で受診を業務命令として通知する(記録を残す)
- 拒否が続く場合は、就業規則に基づく懲戒処分を検討する
記録を残しながら段階的に対応することが、後にトラブルになった際に批判の対象になりにくいことにつながります。
定期健康診断を受けさせずに放置するリスク
「本人が嫌がるから」と放置するのは危険です。
未受診のまま従業員が健康上の問題で倒れた場合、会社が健康状態を把握する機会を怠ったとして、安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。
また、労働基準監督署の調査で未実施が発覚すれば、是正勧告や罰金の対象になる可能性もあります。
受診率100%は、会社を守るためにも必要と考えましょう。
健康診断を受けない社員への対応のまとめ
定期健康診断は会社・社員双方の法律上の義務であり、会社は業務命令として受診を命じることができます。
拒否が続く場合は懲戒処分も可能ですが、理由の確認→勧奨→書面での命令→処分という段階的な対応が原則です。
今回取り上げたのは、就業規則の整備状況や処分の妥当性など、判断に迷う場面も多いテーマです。
「自社の就業規則で対応できるか不安」という場合は、社会保険労務士法人飯田橋事務所にお気軽にご相談ください。





