雇い入れ時の労働条件明示|令和8年10月から追加される事項と企業対応を解説

雇い入れ時の労働条件明示|令和8年10月から追加される事項と企業対応を解説

令和8年10月1日から、パート・有期雇用労働者を雇い入れる際の労働条件明示事項が追加されます。

新たに明示が必要になるのは「正社員との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる」旨です。

違反すると10万円以下の過料の対象になるため、施行日までに労働条件通知書の様式見直しと社内体制の整備が必要です。

本記事では、改正の内容と企業がすべき対応を解説します。

目次

【令和8年10月1日施行】パート・有期雇用労働者への明示事項が追加

【令和8年10月1日施行】パート・有期雇用労働者への明示事項が追加

まずは、今回の改正で何がどう変わるのかを確認しましょう。

追加される明示事項の内容、根拠条文、対象となるタイミング、そして労働条件通知書への具体的な記載方法まで順に解説します。

追加されるのは「待遇差の説明を求めることができる」旨の明示

現在、パート・有期雇用労働者を雇い入れる際には、労働基準法上の明示事項に加えて、以下の4つを文書等で明示する義務があります。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口

令和8年10月1日以降は、これらに加えて「通常の労働者(正社員)との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる」旨の明示が必要になります。

パート・有期雇用労働者が正社員との待遇差について説明を求める権利は、現行法でもすでに認められています(パート・有期雇用労働法第14条第2項)。

今回の改正は、この権利の存在を雇い入れ時に必ず本人へ知らせるよう義務付けるものです。

根拠条文|パート・有期雇用労働法第6条第1項・施行規則第2条

明示義務の根拠は、パート・有期雇用労働法第6条第1項と同法施行規則第2条です。

施行規則第2条が定める「特定事項」(昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口)に、今回「待遇の相違等に関する説明を求めることができる」旨が追加されます。

改正省令は令和8年4月28日付けの官報で公布済みで、施行日が令和8年10月1日です。

対象は雇い入れ時と契約更新時の両方

明示が必要になるのは、新たな雇い入れ時だけではありません。

有期労働契約の更新は法律上「新たな契約の締結」にあたるため、契約更新のタイミングでも同様の明示が必要です。

つまり、既存のパート・有期雇用労働者についても、施行日以降に契約更新を迎えた時点から順次、新しい様式での明示が求められます。

派遣労働者にも同様の規定が追加(労働者派遣法)

派遣労働者についても、労働者派遣法施行規則の改正により同様のルールが追加されます。

派遣元事業主は、令和8年10月1日以降、派遣労働者を雇い入れようとするときと労働者派遣をしようとするときの両方で、「待遇の相違の内容及び理由等について説明を求めることができる」旨を明示しなければなりません

派遣元事業主に該当する企業は、雇入れ時の明示書類と就業条件明示書の両方の見直しが必要です。

労働条件通知書への記載例

厚生労働省のリーフレットでは、次のような記載例が示されています。

「次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる。 部署名○○ 担当者職氏名○○(連絡先○○)」

出典:厚生労働省「モデル労働条件通知書」

「通常の労働者」の部分は、「正社員」など会社ごとの呼称に置き換えて記載しても構いません。

厚生労働省の改正後モデル労働条件通知書も公開されているため、自社様式を見直す際の参考にしましょう。

申出先(担当者・部署)の明記が必要

記載例のとおり、単に「説明を求めることができる」と書くだけでなく、どこに申し出ればよいのか(部署名・担当者・連絡先)まで明記する必要があります。

既存の明示事項である「相談窓口」と同じ窓口にすることも可能ですが、待遇差の説明には人事制度の理解が必要になるため、実際に回答できる部署・担当者を設定することが重要です。

形式対応だけでは不十分|同時に押さえるべき実務

形式対応だけでは不十分|同時に押さえるべき実務

労働条件通知書の様式を変えれば終わり、ではありません。

明示によって説明を求められる場面が増えることを前提に、企業側には「実際に説明できる体制」が求められます。

ここでは、様式対応と同時に押さえておくべき3つの実務を解説します。

説明を求められた際に待遇差の内容・理由を回答できる体制が必要

明示義務への対応は、スタート地点にすぎません。

雇い入れ時に「説明を求めることができる」と伝える以上、実際に説明を求められる場面が増えることが想定されます。

事業主は、求めがあった場合、①待遇差の内容や理由、②待遇決定にあたって考慮した事項を説明する義務があります(パート・有期雇用労働法第14条第2項)。

説明の方法は、「資料を活用し、口頭により説明する方法」または「説明すべき事項を全て記載した分かりやすい資料を交付する方法」のいずれかによるものとされています。

説明を求めたことを理由とする不利益取扱いは禁止

説明を求めた労働者に対して、解雇・雇止め・契約更新拒否などの不利益な取扱いをすることは禁止されています(パート・有期雇用労働法第14条第3項)。

「説明を求めるような社員は更新しない」といった対応は明確な法違反です。

現場の管理職がこうした対応をしないよう、周知・教育も併せて行いましょう。

同一労働同一賃金ガイドラインも同時改正される

令和8年10月1日には、「同一労働同一賃金ガイドライン」も同時に改正されます。

同ガイドラインは、正社員とパート・有期雇用労働者の間のどのような待遇差が不合理なのかについて、考え方や具体例を示したものです。

【今回の改正で新たに追加された項目】

  1. 賞与(記載の充実)
  2. 退職手当(新規追加)
  3. 無事故手当(新規追加)
  4. 家族手当(新規追加)
  5. 住宅手当(新規追加)
  6. 福利厚生施設(記載の充実)
  7. 病気休職(記載の充実)
  8. 夏季冬季休暇(新規追加)
  9. 褒賞(新規追加)の9項目です。

例えば、以下のような内容が示されています。

賞与・退職手当労務の対価の後払い、功労報償等の目的がパートタイム・有期雇用労働者にも妥当するにもかかわらず、正社員との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められる可能性がある。
住宅手当住宅手当が「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパートタイム・有期雇用労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければならない。
夏季冬季休暇パートタイム・有期雇用労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない。

明示義務の対応と併せて、自社の各種手当や福利厚生が改正後のガイドラインに沿ったものになっているか、確認が必要です。

対応しないとどうなるか|違反時のリスク

対応しないとどうなるか|違反時のリスク

「対応が多少遅れても大きな問題にはならないのでは」と考えるのは危険です。

今回の明示義務違反には罰則(過料)があるうえ、それ以外にも見過ごせないリスクがあります。

10万円以下の過料の対象となる

パート・有期雇用労働法第6条第1項の明示義務に違反した場合、10万円以下の過料に処されます。

「知らなかった」「様式を変え忘れた」では済まされないため、施行日までに確実に様式を改定しましょう。

労使トラブル・行政指導のリスク

過料以上に注意すべきなのは、労使トラブルのリスクです。

待遇差の説明を求められた際に合理的な説明ができない場合、労働者の不信感を招き、都道府県労働局への相談や、不合理な待遇差を理由として損害賠償請求に発展するおそれがあります。

また、労働局の報告徴収・助言・指導・勧告の対象にもなり、勧告に従わない場合は企業名公表の可能性もあります。

企業がすべき対応|施行日までにやることチェックリスト

企業がすべき対応|施行日までにやることチェックリスト

ここからは、施行日までに企業が具体的に何をすべきかを整理します。

様式の見直しから体制づくり、社内周知まで、以下の5つをチェックリストとして活用してください。

労働条件通知書・雇用契約書の様式見直し

パート・有期雇用労働者用の労働条件通知書(または雇用契約書)に、「待遇の相違等に関する説明を求めることができる」旨と申出先の記載欄を追加します。

厚生労働省の改正後モデル労働条件通知書を参考に、自社様式を改定しましょう。

派遣元事業主は、派遣労働者向けの明示書類も併せて見直します。

説明の申出先(担当者)の決定

申出先となる部署・担当者を決定し、様式に明記します。

担当者には、待遇差の内容・理由を説明できるだけの制度理解が必要です。

正社員との待遇差の棚卸しと説明準備

基本給・賞与・退職手当・各種手当・福利厚生・休暇について、正社員とパート・有期雇用労働者の待遇差を一覧化し、それぞれの差について「内容」と「理由」を説明できるよう整理します。

改正後の同一労働同一賃金ガイドラインに照らして、説明が難しい待遇差が見つかった場合は、待遇の見直しも検討しましょう。

社内周知・人事担当者への研修

改正内容と新様式の運用開始日を、人事担当者・現場の管理職に周知します。

説明を求められた際の対応フローと、不利益取扱いの禁止についても併せて教育しましょう。

施行日(令和8年10月1日)までのスケジュール

目安として、次のようなスケジュールで進めると余裕を持って対応できます。

  1. 〜令和8年7月:待遇差の棚卸し・説明資料の整理
  2. 〜令和8年8月:労働条件通知書等の様式改定、申出先の決定
  3. 〜令和8年9月:社内周知・担当者研修、10月以降の契約更新者への適用準備
  4. 令和8年10月1日〜:新様式での明示を開始

自社だけでの対応が難しい場合には、社会保険労務士法人飯田橋事務所にお気軽にご相談ください。

雇い入れ時の労働条件明示事項の追加についてよくある質問

雇い入れ時の労働条件明示事項の追加についてよくある質問

最後に、今回の改正について人事担当者からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. 労働条件通知書ではなく雇用契約書に記載してもよいですか?

問題ありません。

法律上求められているのは「文書の交付等による明示」であり、様式は問われません。

労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」に必要事項を記載する方法でも対応できます。

Q2. 書面ではなくメールでの明示は認められますか?

労働者が希望した場合に限り、FAX、電子メール、SNSメッセージ機能など(出力して書面を作成できるものに限る)による明示が認められます。

労働者の希望がないのに一方的に電子メールのみで明示することはできないため、本人の希望を確認したうえで対応しましょう。

まとめ:令和8年10月の労働条件明示ルール変更に対応しよう

令和8年10月1日から、パート・有期雇用労働者(および派遣労働者)の雇い入れ時・契約更新時に、「待遇差の説明を求めることができる」旨と申出先の明示が義務化されます。

違反は、10万円以下の過料の対象です。

様式の改定だけでなく、実際に説明を求められた際に回答できる体制づくりと、同一労働同一賃金ガイドライン改正を踏まえた待遇差の点検までがセットの対応になります。

「自社の様式がこのままでよいか分からない」「待遇差をどう説明すればよいか不安」という場合は、社会保険労務士法人飯田橋事務所にお気軽にご相談ください。

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