2026.10.14 ブログ
従業員に健康診断を受けさせることは、労働安全衛生法に基づく会社の義務です。
対象者の範囲・検査項目・費用負担・実施後の対応まで、正しく運用できているかが問われます。
2026年は、協会けんぽの健診制度が大きく見直されたほか、2027年4月からは法定の検査項目そのものが変わることも決まりました。
本記事では、健康診断に関する会社の義務を整理したうえで、2026年以降の見直しポイントと実務への影響を解説します。
次回の健診手配に間に合うよう、企業担当者の方はぜひ最後までご覧ください。
健康診断に関する会社の義務:5つの対応と期限の一覧
健康診断について会社が対応すべきことを、5つに分けて表にまとめました。
| 対応 | 期限・頻度 | 主なやること | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1. 健診の実施 | 雇入れ時・年1回(業務により6か月ごと) | 対象者を洗い出し、健診機関を手配する | 労働安全衛生法第66条第1項 |
| 2. 結果の記録・保存 | 原則5年間 | 健康診断個人票を作成し保存する | 同法第66条の3、労働安全衛生規則第51条 |
| 3. 医師の意見聴取 | 健診日から3か月以内 | 異常所見者について医師の意見を聴く | 同法第66条の4、同規則第51条の2 |
| 4. 就業上の措置・結果通知 | 遅滞なく | 必要な措置を講じ、本人へ結果を通知する | 同法第66条の5、第66条の6 |
| 5. 労働基準監督署への報告 | 遅滞なく(常時50人以上) | 定期健康診断結果報告書を電子申請で提出する | 同規則第52条 |
健診を「受けさせて終わり」にしている会社は少なくありません。
しかし、表の2〜5もすべて法令上の義務です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
1. 健康診断の実施は会社の義務
法的根拠と罰則
会社は、常時使用する労働者に対して、医師による健康診断を行わなければなりません(労働安全衛生法第66条第1項)。
定期健康診断を実施しないなどの違反には、50万円以下の罰金が定められています(同法第120条第1号)。
一方、従業員にも健康診断を受ける義務があります(同法第66条第5項)。
対象者の範囲
対象は正社員に限りません。
パートやアルバイトであっても、次の2つをいずれも満たす場合は「常時使用する労働者」として対象になります。
- 期間の定めのない契約、または1年以上(特定業務従事者は6か月以上)の雇用が見込まれること
- 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること
なお、4分の3未満であっても概ね2分の1以上の場合は、実施することが望ましいとされています。
派遣労働者の一般健康診断は、派遣元の会社が実施します。
健康診断の種類と頻度
| 健康診断の種類 | 対象者 | 実施時期 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 雇入時健康診断 | 常時使用する労働者 | 雇入れの際 | 労働安全衛生規則第43条 |
| 定期健康診断 | 常時使用する労働者(特定業務従事者を除く) | 1年以内ごとに1回 | 同規則第44条 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 深夜業など同規則第13条第1項第3号の業務に常時従事する労働者 | 配置替えの際・6か月以内ごとに1回 | 同規則第45条 |
| 海外派遣労働者の健康診断 | 海外に6か月以上派遣する労働者 | 派遣前・帰国後に国内業務に就かせる際 | 同規則第45条の2 |
| 給食従業員の検便 | 事業に附属する食堂・炊事場で給食業務に従事する労働者 | 雇入れの際・配置替えの際 | 同規則第47条 |
深夜業を含むシフト勤務の従業員は、年2回の健診が必要になる点に注意しましょう。
2. 健康診断の検査項目と2027年4月からの見直し
現行の定期健康診断の項目
定期健康診断では、次の11項目を実施します(労働安全衛生規則第44条第1項)。
- 既往歴・業務歴の調査
- 自覚症状・他覚症状の有無の検査
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査
- 胸部エックス線検査・喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量・赤血球数)
- 肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール・HDLコレステロール・血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(糖・蛋白の有無)
- 心電図検査
身長や腹囲、胸部エックス線検査などは、年齢等の基準に該当し、医師が必要でないと認めるときに省略できます(同条第2項)。
2027年4月1日から変わる3つのポイント
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第89号)が2026年4月28日に公布され、2027年4月1日から健診項目の取扱いが変わります。
| 見直し内容 | 概要 |
|---|---|
| 血清クレアチニン検査の追加 | 腎機能を調べる検査が新たに加わる |
| 喀痰検査の削除 | 定期健診・特定業務従事者健診・海外派遣労働者健診での喀痰検査を廃止 |
| 肝機能検査の名称変更 | 酵素名の表記を現在の医学的な呼称に合わせる |
健診機関との契約は、前年度中に翌年度分を取り決めることが多いはずです。
2027年度の契約・見積りの段階で、新しい項目に対応しているかを確認しましょう。
「女性の健康」に関する問診について
厚生労働省は2026年1月、健診の問診票で女性特有の健康課題(月経・更年期など)を尋ねる際のマニュアルを公表しました。
この問診は、事業者に実施が義務付けられたものではありません。
導入する場合は、回答の取扱いや本人同意など、健康情報の取扱規程とあわせて検討するのが安全です。
3. 費用負担と受診時間の賃金
法定健診の費用は会社負担が原則
法定の健康診断の費用は、会社が負担すべきものとされています(昭和47年9月18日基発第602号)。
一方、法定外のオプション検査や、本人の希望による人間ドックの上乗せ部分は、本人負担とする会社が一般的です。
受診時間中の賃金
一般健康診断の受診時間の賃金は、労使で協議して定めるべきものとされています(同通達)。
ただし、円滑な受診のため、会社が支払うことが望ましいとされています。
特殊健康診断は業務の遂行に関して実施するものであるため、受診時間は労働時間として扱います。
精密検査(二次検査)の費用
再検査・精密検査の受診は、法律上の義務ではありません。
ただし、放置して健康状態が悪化すれば、安全配慮義務(労働契約法第5条)の問題になりかねません。
受診勧奨の方法や費用負担のルールを、社内規程で決めておきましょう。
4. 【2026年度】協会けんぽの健診見直しと会社の対応
見直しの全体像
協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入している会社では、2026年度(令和8年度)から被保険者向けの健診制度が大きく変わりました。
| 健診 | 対象 | 自己負担(最高額) | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 一般健診(若年) | 20歳・25歳・30歳の被保険者 | 2,500円 | 血液検査・尿検査・肺がん検診など(胃・大腸の検査は省略) |
| 一般健診 | 35歳以上の被保険者 | 5,500円 | 従来の生活習慣病予防健診 |
| 節目健診 | 一定の年齢の被保険者 | 8,280円 | 旧「付加健診」から名称変更 |
| 人間ドック健診 | 35歳以上の被保険者 | 補助額 最高25,000円 | 一般健診の項目に検査を追加し、医師の説明・特定保健指導も含む |
| 骨粗しょう症検診 | 40歳以上の偶数年齢の女性被保険者 | 1,390円 | 問診と骨量の測定 |
(2026年度時点・協会けんぽの公表資料による)
これまで35歳以上に限られていた補助が、20歳・25歳・30歳にも広がりました。
人間ドックへの補助が新設されたことも大きな変更点です。
なお、被扶養者(家族)への対象拡大は2027年度(令和9年度)からとされています。
法定健診との関係
協会けんぽの健診には、法定の定期健康診断の項目が含まれています。
そのため、協会けんぽの健診を受けて結果を会社へ提出してもらえば、法定健診を実施したものとして扱えます(労働安全衛生法第66条第5項ただし書)。
ただし、会社の義務がなくなるわけではありません。
結果の保存・医師の意見聴取・事後措置は、会社が行う必要があります。
会社が確認しておきたい3つのポイント
1つ目は、自己負担額を誰が負担するかです。
法定項目にあたる部分は会社が負担するのが原則です。
自己負担分を従業員の給与から控除する運用になっていないか、確認しましょう。
2つ目は、人間ドックの扱いです。
人間ドックの補助を使う従業員が出てきた場合、法定健診の費用相当分を会社が持ち、上乗せ部分を本人負担とするなど、線引きを決めておくと混乱を防げます。
3つ目は、20歳・25歳・30歳の従業員の受診方法です。
これまで会社で別途手配していた若年層の健診を、協会けんぽの一般健診(若年)に切り替えられる可能性があります。
なお、補助の対象は年齢等の条件を満たす被保険者に限られるため、それ以外の年齢の従業員は従来どおり会社が手配します。
5. 健康診断後に会社が行うべき対応
医師の意見聴取と就業上の措置
異常の所見があると診断された従業員については、健診日から3か月以内に医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4、労働安全衛生規則第51条の2)。
その意見を踏まえ、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じます(同法第66条の5)。
産業医の選任義務がない常時50人未満の事業場でも、意見聴取の義務はあります。
地域産業保健センターなどを活用しましょう。
結果の通知と保存
健診結果は、遅滞なく従業員本人へ通知しなければなりません(同法第66条の6、同規則第51条の4)。
健康診断個人票は5年間保存します(同規則第51条)。
じん肺健康診断は7年、石綿健康診断は40年など、特殊健康診断ごとに保存期間が異なる点に注意が必要です。
労働基準監督署への報告
常時50人以上の労働者を使用する会社は、定期健康診断結果報告書を所轄の労働基準監督署長へ提出します(同規則第52条)。
2025年1月1日からは、この報告は原則として電子申請で行うこととされています。
健康診断でよくあるトラブルと対応
従業員が受診を拒否する
従業員にも受診義務があるため、会社は受診を命じることができます。
まずは受診の必要性を丁寧に説明し、日程の調整などで受診しやすい環境を整えましょう。
それでも拒否が続く場合は、就業規則の定めに基づく対応を検討します。
懲戒処分を検討する場合は、就業規則に根拠規定があることが前提です。
健診結果を本人の同意なく共有する
健診結果は、要配慮個人情報にあたります。
医師の意見聴取や就業上の措置に必要な範囲を超えて、上司や同僚に共有することは避けましょう。
取扱いの範囲は、健康情報等の取扱規程で定めておくのが安全です。
協会けんぽの健診を「受けたことにしてしまう」
協会けんぽの健診を案内しただけで、受診したかどうかや結果を確認していないケースがあります。
結果の提出を受けなければ、会社は医師の意見聴取も事後措置も行えません。
受診状況と結果の回収状況を、担当者が一覧で管理しましょう。
健康診断の義務と2026年の見直しのまとめ
健康診断は、実施・記録・医師の意見聴取・事後措置・報告までが会社の義務です。
2026年度から協会けんぽの健診が拡充され、20歳・25歳・30歳の若年層や人間ドックにも補助が広がりました。
2027年4月1日からは、血清クレアチニン検査の追加や喀痰検査の削除など、法定の検査項目も変わります。
協会けんぽの健診を活用する場合は、自己負担や人間ドックの費用をどこまで会社が持つのか、判断に迷う場面もあるでしょう。
就業規則の整備状況や個別の事情によって判断が変わる場面も多いテーマです。
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