2026.09.28 ブログ
2026年度(令和8年度)の地域別最低賃金は、多くの都道府県で2026年10月1日から発効します。
最低賃金は正社員だけでなく、パート・アルバイト・嘱託社員を含むすべての労働者に適用されます。
発効日を過ぎてから賃金が下回っていたと判明した場合、差額の遡及支払だけでなく罰則の対象にもなります。
本記事では、会社側が対応すべき最低賃金改定の実務を5つのステップに整理し、計算方法・注意点・よくある質問まで解説します。
発効日までにスムーズに対応できるよう、企業担当者の方はぜひ最後までご覧ください。
最低賃金改定への対応:5つのステップと対応期限の一覧
最低賃金改定について会社側で必要な対応を、5つのステップに分けて表にまとめました。
| ステップ | 対応期限の目安 | 主なやること |
|---|---|---|
| 1. 改定額と発効日の確認 | 発効日の1か月前 | 事業場が所在する都道府県の確定額と発効日を確認する |
| 2. 対象賃金の洗い出しと換算 | 発効日の3週間前 | 除外賃金を差し引いた額を時間額に換算し、改定後の額と比較する |
| 3. 賃金の見直し | 発効日の2週間前 | 下回る従業員の改定額を決定し、社内の賃金バランスを調整する |
| 4. 特例・派遣・特定最賃の確認 | 発効日の2週間前 | 減額特例許可の有無、派遣社員の適用地域、特定最低賃金を確認する |
| 5. 規程・帳票の更新と周知 | 発効日まで | 賃金規程・雇用契約書・求人票を更新し、最低賃金を周知する |
このうちステップ5の周知は、最低賃金法第8条に定められた会社の義務です。
社内の賃金対応が終わっていても、周知を怠るとそれ自体が違反になります。
それぞれのステップについて詳しくみていきましょう。
1. 【令和8年度】改定額と発効日を確認する
最初に確認すべきは、自社の事業場が所在する都道府県の改定額と発効日です。
全国一律ではないため、ここを取り違えると以降の作業がすべてずれてしまいます。
目安答申はAランク54円・Bランク56円・Cランク56円
2026年(令和8年)7月28日、中央最低賃金審議会は2026年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申しました。
目安額は、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円です。
答申をふまえた実際の全国加重平均は1,177円となります。
上昇額は56円、引上げ率は5.0%です。
2025年度は上昇額66円・引上げ率6.3%でしたので、引き上げ幅は前年度を下回っています。
ランクごとの区分は以下のとおりです。
| ランク | 対象 | 都道府県 |
|---|---|---|
| Aランク | 6都府県 | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 |
| Bランク | 28道府県 | 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 |
| Cランク | 13県 | 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
参考:全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました|厚生労働省
「目安額」で自社の賃金を計算してはいけない
ここが実務上、最も注意が必要な点です。
中央最低賃金審議会が示すのはあくまで「目安」であり、実際の金額は各都道府県の地方最低賃金審議会が答申し、都道府県労働局長が決定します。
2025年度(令和7年度)は、目安が全国加重平均1,118円だったのに対し、最終的な改定額の全国加重平均は1,121円となりました。
引上げ額も、目安の63円に対して、実際は47都道府県で63円から82円の幅がありました。
2026年度も、目安のAランク54円に対して55円の答申を行った県があります。
目安額を前提に賃金表を作り直すと、発効日の時点で最低賃金を下回るおそれがあります。
必ず、事業場が所在する都道府県労働局が公示した確定額で計算しましょう。
首都圏・主要府県の改定額と発効日
首都圏および主要府県の2026年度改定額は、以下のとおりです。
| 都道府県 | 2026年度の時間額 | 引上げ額 | 発効日 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1,280円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 神奈川県 | 1,279円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 埼玉県 | 1,196円 | 55円 | 2026年10月1日 |
| 千葉県 | 1,195円 | 55円 | 2026年10月1日 |
| 愛知県 | 1,195円 | 55円 | 2026年10月1日 |
| 大阪府 | 1,231円 | 54円 | 2026年10月1日 |
発効日は都道府県ごとに異なり、10月1日発効が最も多いものの、10月中旬以降や11月に発効する府県もあります。
複数の都道府県に事業場がある会社は、事業場ごとに所在地の最低賃金と発効日を確認する必要があります。
本社所在地の最低賃金を全社に適用してしまう誤りが、実務では散見されますので注意しましょう。
2. 対象になる賃金を洗い出して時間額に換算する
改定額を確認したら、全従業員の賃金が改定後の額を上回っているかを検算します。
このとき比較するのは、支給される賃金の総額ではありません。
最低賃金に算入しない賃金は法令で決まっている
最低賃金法第4条第3項および最低賃金法施行規則第1条により、以下の賃金は最低賃金の対象から除外されます。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当、私傷病手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金)
- 深夜労働に対して支払われる割増部分
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
つまり、基本給と、上記に該当しない諸手当の合計で判断します。
役職手当・資格手当・地域手当などは、原則として算入の対象です。
月給者は「時間額」に換算して比較する
月給制の従業員については、最低賃金法施行規則第2条第1項第3号に基づき、月額を1か月の所定労働時間数で割って時間額に換算します。
月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数を使います。
日給制・週給制・出来高払制についても、同じく施行規則第2条に換算方法が定められています。
計算例:東京都・月給者の場合
具体的な数字で確認してみましょう。
- 基本給:200,000円
- 役職手当:10,000円
- 通勤手当:15,000円(算入しない)
- 1年間の1か月平均所定労働時間:160時間
算入対象の賃金は、200,000円+10,000円=210,000円です。
時間額に換算すると、210,000円 ÷ 160時間 = 1,312.5円となります。
東京都の1,280円(2026年10月1日以降)を上回っているため、この例では問題ありません。
なお、通勤手当を含めて計算すると1,406.25円となり、実態より高い時間額が出てしまいます。
3. 賃金を見直す:給与計算で起きやすい4つのミス
検算の結果、下回る従業員がいれば賃金を改定します。
その前に、そもそも検算そのものが誤っていないかを確認しましょう。
給与計算のご担当者からご相談が多いのは、以下の4つのケースです。
ミス1. 固定残業代を含めて計算してしまう
固定残業代(みなし残業手当)は、時間外労働に対して支払われる賃金です。
そのため最低賃金には算入できません。
「基本給18万円+固定残業代4万円」の場合、最低賃金と比較するのは18万円のみです。
固定残業代の割合が大きい賃金設計ほど、改定時に最低賃金を下回りやすくなります。
ミス2. 通勤手当・家族手当を含めて計算してしまう
いずれも施行規則第1条で明確に除外されています。
給与明細の支給合計額から判断すると誤ります。
精皆勤手当も同様に除外対象です。
ミス3. 所定労働時間数が実態と合っていない
年間所定労働日数の設定が古いまま更新されていないケースです。
分母が小さいと時間額が高く算出されるため、実態は下回っているのに気づけません。
カレンダーを変更した年は、必ず1か月平均所定労働時間数を再計算しましょう。
ミス4. 歩合給を換算していない
出来高払制その他の請負制による賃金は、賃金算定期間の総額を、その期間の総労働時間数で割って換算します(施行規則第2条第1項第5号)。
固定給と歩合給の併給の場合は、それぞれ換算したうえで合算します。
発効日をまたぐ賃金計算期間の処理
賃金締切日が月末以外の会社では、賃金計算期間の途中で発効日を迎えます。
たとえば「毎月20日締め・当月25日払い」で、10月1日発効の場合です。
このとき、9月21日から9月30日までは改定前の額、10月1日から10月20日までは改定後の額が適用されます。
賃金計算期間の全体を旧額のままにすると、10月1日以降の労働時間について最低賃金法違反となります。
給与システムの単価変更を、締め日ではなく発効日で切り替えられるかを事前に確認しておきましょう。
改定後に残りやすい「賃金の逆転」への対応
最低賃金に合わせて下限額だけを引き上げると、新人と経験者の賃金差が縮まります。
この「圧縮」は改定のたびに起きる課題で、勤続年数の長い従業員の納得感を損ないます。
下限の是正だけで終わらせず、賃金テーブル全体の見直しや、手当・評価制度による差別化をあわせて検討しましょう。
4. 減額の特例許可・派遣・特定最低賃金を確認する
一律の対応では判断を誤る3つの論点があります。
該当者がいないかを、賃金の見直しとあわせて確認しましょう。
試用期間中でも自動的に減額はできない
最低賃金法第7条は、一定の労働者について最低賃金額を減額する特例を定めています。
対象は、①精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者、②試の使用期間中の者、③認定職業訓練を受ける者のうち厚生労働省令で定めるもの、④軽易な業務に従事する者・断続的労働に従事する者です。
ただし、これらに該当すれば当然に減額できるわけではありません。
適用には都道府県労働局長の許可が必要です。
減額率の上限も定められており、試用期間中の者は20%が上限です(最低賃金法施行規則第5条)。
許可を受けずに減額して支払っていた場合は、最低賃金法違反となります。
派遣社員は「派遣先」の地域別最低賃金
派遣中の労働者には、派遣元ではなく派遣先の事業場が所在する地域の最低賃金が適用されます(最低賃金法第13条)。
東京都に本社のある派遣元が、最低賃金の低い県へ派遣する場合も、逆の場合も同様です。
派遣元は、派遣先ごとに適用される最低賃金額を確認する必要があります。
特定最低賃金についても、同様に派遣先基準で判断します(同法第18条)。
特定(産業別)最低賃金の有無を確認する
地域別最低賃金とは別に、特定の産業について「特定最低賃金」が定められている場合があります。
両方が適用される場合は、高い方の額が適用されます。
発効日も地域別最低賃金とは異なることが多いため、自社の業種が対象かどうかは都道府県労働局の賃金室にご確認ください。
5. 規程・帳票の更新と周知まで終わらせる
賃金額の変更が決まったら、関連する書類の更新と周知まで一気に終わらせましょう。
ここが抜けると、賃金は適正でも手続き面で指摘を受けることになります。
最低賃金の周知は法律上の義務
最低賃金法第8条は、使用者に対し、最低賃金の概要を常時作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法で、労働者に周知させる措置をとることを義務づけています。
この周知義務に違反した場合、30万円以下の罰金の対象となります(同法第41条第1号)。
都道府県労働局が配布する周知用リーフレットを、事業場ごとに掲示または備え付けましょう。
在宅勤務者が多い会社では、社内ポータルへの掲載など、実際に閲覧できる方法をあわせて整えておくと安全です。
更新が必要な書類の一覧
賃金改定にともなって見直しが必要な書類は、以下のとおりです。
| 書類 | 更新のポイント |
|---|---|
| 賃金規程・給与規程 | 初任給や時給の下限額を条文に書いている場合は改定が必要 |
| 労働条件通知書・雇用契約書 | 賃金額の変更を書面で通知する。有期契約者は更新時の記載も確認する |
| 求人票・求人広告 | 掲載中の求人が改定後の額を下回っていないか。ハローワーク求人は差し替えを申し出る |
| 賃金台帳 | 単価変更の反映時期が発効日と一致しているか |
賃金規程に具体的な金額を書き込んでいると、毎年改定作業が必要になります。
「最低賃金法に定める最低賃金額を下回らない額とする」といった規定にしておくと、改定のたびの変更手続きを減らせます。
なお、賃金規程の変更は就業規則の変更にあたるため、労働者代表からの意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条、第90条)。
最低賃金を下回っていた場合に会社が負うリスク
対応が間に合わなかった場合、会社にはどのような影響があるのでしょうか。
差額の遡及支払と罰則
最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分について無効となります。
そして、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条第2項)。
つまり、最低賃金額で契約したものとして扱われ、差額の支払義務が生じます。
支払は発効日にさかのぼって行う必要があり、対象者が多いほど負担は大きくなります。
さらに、地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合には50万円以下の罰金が科され(同法第40条)、法人にも両罰規定により罰金刑が科されます(同法第42条)。
割増賃金の基礎単価にも連動する
時間外労働がある従業員については、割増賃金の算定基礎単価も連動して上がります。
基礎単価の修正漏れは、労働基準監督署の調査で是正勧告につながりやすい論点です。
最低賃金の改定にあわせて、割増賃金の単価が正しく再計算されているかまで確認しましょう。
2026年度の最低賃金改定についてよくある質問
最低賃金の改定について、担当者の方が抱えがちな疑問をまとめました。
Q1. 本人が「この時給でよい」と同意していれば問題ありませんか?
問題があります。
最低賃金額に達しない賃金を定める合意は、その部分について無効です(最低賃金法第4条第2項)。
本人の同意があっても、差額の支払義務は消えません。
Q2. 学生アルバイトや試用期間中の社員にも適用されますか?
適用されます。
雇用形態・年齢・国籍を問わず、事業場で使用されるすべての労働者が対象です。
試用期間中の減額には、前述のとおり都道府県労働局長の許可が必要です。
Q3. 複数の都道府県に支店がある場合、どの最低賃金を適用しますか?
事業場ごとに、その事業場が所在する都道府県の最低賃金を適用します。
本社所在地の額を全社一律に適用することはできません。
発効日も都道府県ごとに異なるため、支店ごとに切替日を管理する必要があります。
Q4. 発効日を過ぎてから下回っていたことに気づいた場合はどうすればよいですか?
発効日にさかのぼって差額を計算し、速やかに支払いましょう。
あわせて、割増賃金の基礎単価に誤りがなかったかも確認が必要です。
自主的に是正し、記録を残しておくことが、後の調査で説明できる状態につながります。
まとめ
2026年度の最低賃金は、目安がAランク54円・Bランク56円・Cランク56円、全国加重平均1,177円で、多くの都道府県が10月1日から発効します。
ただし確定額は都道府県ごとに異なるため、目安ではなく労働局が公示した額で計算することが不可欠です。
また、最低賃金と比較するのは総支給額ではなく、除外賃金を差し引いた額を時間額に換算した金額である点にも注意が必要です。
最低賃金への対応は、単価の付け替えだけでは終わりません。
固定残業代の設計、賃金テーブルの逆転、割増賃金の基礎単価まで含めて見直すことで、はじめてリスクを解消できます。
「自社の賃金体系が改定後の最低賃金に耐えられるか不安」「支店ごとの管理が煩雑で対応漏れが心配」という場合には、社会保険労務士法人飯田橋事務所までお気軽にご相談ください。
本記事を参考に、2026年度の最新情報を押さえ、発効日までの対応を万全に進めましょう。