2026.10.21 ブログ
2026年は、社用車を使う会社にとって見過ごせない交通ルールの改正が相次ぎました。
4月には自転車への側方通過ルールの新設、7月21日には危険運転致死傷罪の要件の明確化、9月1日には生活道路の法定速度の引き下げが施行されています。
従業員が業務中に事故や違反を起こせば、会社も使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性があります。
本記事では、2026年の主な改正内容と、社用車を使う会社が見直すべき管理体制・車両管理規程のポイントを解説します。
営業車・配送車を保有する企業担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
2026年に施行された主な改正:3つのポイントと施行日の一覧
社用車の運用に関係する2026年の主な改正を、施行日順にまとめました。
| 施行日 | 改正内容 | 会社への主な影響 |
|---|---|---|
| 2026年4月1日 | 自動車等が自転車等の右側を通過する際の間隔・速度のルール新設 | 市街地での運転方法の再教育が必要 |
| 2026年7月21日 | 危険運転致死傷罪・酒酔い運転の要件の明確化 | 飲酒・速度超過に対する社内ルールの再確認 |
| 2026年9月1日 | 生活道路の法定速度を時速60kmから30kmに引き下げ | 移動時間が延びるため訪問・配送スケジュールの見直し |
このうち9月1日の法定速度の引き下げは、日常的な営業回りや配送ルートに直接影響します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
1. 生活道路の法定速度が時速30kmに(2026年9月1日施行)
対象となる道路
2026年9月1日から、生活道路における一般道の法定速度が、時速60kmから30kmに引き下げられました(道路交通法施行令第11条)。
対象となるのは、次のいずれもない一般道です。
- 中央線
- 車両通行帯
- 中央分離帯
住宅街の道路や、センターラインのない幹線道路の抜け道などが典型です。
対象にならない道路
次の道路の法定速度は、従来どおり時速60kmです。
- 中央線や車両通行帯がある一般道
- 中央分離帯で往復の方向が分離されている一般道
また、高速自動車国道の本線や自動車専用道路も対象外です。
標識や標示で最高速度が指定されている道路では、その指定速度が優先されます。
会社が見直したいこと
速度標識のない生活道路を、これまで時速40〜50kmで走行していた従業員もいるかもしれません。
改正後は、同じ走り方が速度超過になります。
訪問件数や配送件数を前提に組んだスケジュールが、無理のある移動時間を前提にしていないか確認しましょう。
2. 自転車の右側を通過するときの新ルール(2026年4月1日施行)
自動車等が、同じ方向に進む自転車等の右側を通過するときに、十分な間隔がない場合は、間隔に応じた安全な速度で進行しなければなりません(道路交通法第18条第3項)。
警察庁の資料では、間隔の目安を1.5m程度、間隔が取れないときの速度の目安を時速20〜30km程度としています。
あわせて、2026年4月1日から、16歳以上の自転車の交通違反に交通反則通告制度(いわゆる青切符)が適用されています。
自転車で通勤・外回りをする従業員がいる会社は、自転車の利用ルールもあわせて周知しましょう。
3. 危険運転致死傷罪の要件の明確化(2026年7月21日施行)
改正の内容
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)と道路交通法が改正され、2026年7月21日から施行されています。
| 区分 | 改正後の内容 |
|---|---|
| 飲酒 | 呼気1リットルにつき0.5mg以上(血液1ミリリットルにつき1.0mg以上)のアルコールを保有する状態での運転を、数値で明確化 |
| 高速度 | 最高速度が時速60km以下の道路では50km超過、60kmを超える道路では60km超過以上の速度での運転を追加 |
| タイヤを滑らせる運転 | ドリフト走行など、タイヤを滑らせて進行の制御を困難にする行為を追加 |
道路交通法の酒酔い運転についても、同じアルコール量の基準が明確化されました。
会社にとっての意味
この改正で、数値基準を超えれば体質や運転の様子にかかわらず要件に該当することになります。
危険運転致死傷罪の法定刑は、人を死亡させた場合は1年以上の拘禁刑、負傷させた場合は15年以下の拘禁刑です。
従業員が業務中に起こした事故であれば、会社の社会的信用への影響も避けられません。
なお、酒気帯び運転の基準(呼気1リットルにつき0.15mg以上)は従来どおりです(道路交通法施行令第44条の3)。
「基準を下回れば問題ない」ということではない点を、従業員教育で伝えましょう。
4. 社用車を使う会社に課される義務
安全運転管理者の選任とアルコールチェック
一定台数以上の自動車を使用する事業所では、安全運転管理者を選任しなければなりません(道路交通法第74条の3第1項)。
| 選任が必要な事業所 | 選任する者 |
|---|---|
| 乗車定員11人以上の自動車を1台以上使用 | 安全運転管理者 |
| その他の自動車を5台以上使用(自動二輪車は1台を0.5台として計算) | 安全運転管理者 |
| 自動車を20台以上使用 | 上記に加えて副安全運転管理者(20台ごとに1人) |
選任したときは、15日以内に公安委員会へ届け出る必要があります(同条第5項)。
安全運転管理者は、運転の前後に運転者の酒気帯びの有無を確認し、その内容を記録して1年間保存しなければなりません(道路交通法施行規則第9条の10)。
確認は、目視等に加えてアルコール検知器を用いて行います。
いわゆる白ナンバーの社用車も対象です。
使用者として「させてはならない」こと
会社(使用者)は、従業員に次のような運転を命じたり、容認したりしてはなりません(道路交通法第75条第1項)。
- 無免許運転
- 最高速度違反
- 酒気帯び運転
- 過労・病気等で正常な運転ができないおそれがある状態での運転
- 過積載・放置駐車
ここで注意したいのは「最高速度違反」です。
法定速度を守っていては到底間に合わない訪問・配送スケジュールを組めば、速度違反を容認していると評価されるおそれがあります。
生活道路の法定速度が引き下げられた今こそ、業務量と移動時間のバランスを見直しましょう。
事故が起きたときの会社の責任
従業員が業務中に第三者に損害を与えた場合、会社は使用者責任を負います(民法第715条)。
自動車の人身事故では、自己のために自動車を運行の用に供する者として、運行供用者責任も問われます(自動車損害賠償保障法第3条)。
従業員のマイカーを業務に使わせている場合も、会社が責任を問われる可能性がある点に注意が必要です。
5. 車両管理規程で定めておきたい項目
規程に盛り込む主な項目
社用車を使う会社は、車両管理規程を整備しておくのが安全です。
主な項目は次のとおりです。
| 項目 | 定める内容の例 |
|---|---|
| 適用範囲 | 社用車・リース車・業務に使用する私有車(マイカー)の別 |
| 運転者の要件 | 運転を認める者の範囲、免許の確認方法と頻度 |
| アルコールチェック | 運転前後の確認方法、検知器の管理、不在時の確認方法 |
| 運転時の遵守事項 | 法定速度・指定速度の遵守、携帯電話の使用禁止、休憩の取り方 |
| 事故・違反時の対応 | 報告の手順と期限、反則金・罰金の負担 |
| 損害の負担 | 会社と従業員の負担の考え方 |
| 私有車の業務使用 | 許可制、任意保険の加入条件、費用の精算方法 |
| 懲戒 | 飲酒運転や重大な違反に対する懲戒との関係 |
2026年の改正を受けて見直したいポイント
1つ目は、遵守事項に「生活道路の法定速度は時速30km」と具体的に書くことです。
「法令を遵守する」という一文だけでは、従業員が改正に気づかないおそれがあります。
2つ目は、飲酒に関するルールの明確化です。
前日の飲酒による酒気残りも含め、運転前に確認する運用を定めておきましょう。
3つ目は、懲戒規定との整合です。
飲酒運転などを懲戒の対象とする場合は、就業規則に懲戒の種類と事由を定めておく必要があります(労働基準法第89条第9号)。
社用車の運用でよくあるトラブルと対応
事故の損害をすべて従業員に負担させる
業務中の事故で会社が負担した損害について、従業員への請求は信義則上相当と認められる限度に制限されるとした判例があります(茨石事件・最高裁第一小法廷 昭和51年7月8日判決)。
規程で「事故の損害は全額本人負担」と定めていても、そのとおりに請求できるとは限りません。
給与から一方的に控除することも、賃金全額払いの原則(労働基準法第24条第1項)との関係で問題になります。
マイカーの業務使用を黙認している
許可制にせず、マイカーでの外回りを黙認しているケースがあります。
この場合、任意保険の加入状況や補償内容を会社が把握できていないことがあります。
業務使用を認めるなら、許可制にしたうえで任意保険の加入条件を定めましょう。
アルコールチェックの記録が残っていない
直行直帰や出張時に、確認の記録が抜けてしまうケースがあります。
携帯型の検知器とカメラ・電話等を使った確認方法など、対面できない場合の手順を規程で決めておきましょう。
2026年道路交通法改正と社用車管理のまとめ
2026年は、生活道路の法定速度の引き下げ、自転車の右側を通過する際のルール新設、危険運転致死傷罪の要件の明確化が相次いで施行されました。
社用車を使う会社には、安全運転管理者の選任やアルコールチェックに加え、速度違反や酒気帯び運転を容認しない体制づくりが求められます。
車両管理規程に改正内容を具体的に反映し、従業員への周知と教育を行いましょう。
事故時の損害の負担割合やマイカーの扱いなど、どこまで規程で定められるかは判断に迷う場面もあるでしょう。
就業規則の整備状況や個別の事情によって判断が変わる場面も多いテーマです。
「自社の場合どう対応すべきか」とお悩みの際は、社会保険労務士法人飯田橋事務所にお気軽にご相談ください。