2026年以降に施行が予定されている労働関係法改正のポイント!企業が準備すべき実務対応を社労士が解説

日本では、従業員の働き方や労働環境に関連する法令がいくつも定められており、定期的に内容の改正が行われています。

2026年以降にもいくつかの法令内容が改正が検討されているため、企業としては事前に情報をキャッチアップし備えておく必要があるでしょう。

そこで本記事では、2026年以降に予定されている労働関係法の改正内容を解説します。

今から準備できることにも触れているので、企業の人事・労務・総務担当の方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

労働関係法改正とは?2026年以降に施行予定の法令

労働関係法改正とは?2026年施行予定の法令

「労働関係法」とは、労働基準法・労働安全衛生法・労働施策総合推進法・公益通報者保護法など、労働条件や安全衛生・ハラスメント防止・通報体制といった分野を定める複数の法律の総称です。

労働関係法はすべて、企業の人事・労務管理や職場環境の整備に直接影響する重要な法令のため、企業は改正内容を正確に理解しておく必要があります。

2026年以降に予定されている改正では、複数の法律が見直される予定です。

施行時期は2026年4月からのものもあり、一部の法令については段階的な導入が予定されています。

企業としては、就業規則や安全衛生体制や相談窓口の整備などを進め、改正施行時に混乱なく運用できる体制を整えておくことが重要です。

労働基準法の改正(2026年以降予定)

労働基準法の改正(2026年中予定)

2026年以降に予定されている労働基準法の改正は、長時間労働の是正や休日・休息の確保など、働き方改革を推進する内容が中心です。

これまで努力義務とされていた項目が義務化されるケースもあるため、企業の労務管理体制には具体的な見直しが求められるでしょう。

改正項目のなかでも、特に実務への影響が大きいポイントを整理して解説します。

連続勤務の上限規制(14日以上の連続勤務禁止)

1つ目の改正内容として、労働者が14日以上連続勤務することを禁止する規定が新設される予定です。

現行法では明確な上限日数はありませんでしたが、今後は「最大13日間勤務したら、必ず1日は休ませる」というルールが追加されます。

ただし「13日なら連勤してよい」という趣旨ではなく、あくまで健康確保の観点から14日以上の過剰労働を防ぐための最低基準です。

「14日を超えないように管理することが義務化される」と覚えておきましょう。

法定休日の特定義務

2つ目の改正として、法定休日(週1回または4週間で4回以上)を事前に定める義務が新設されます。

現行法では、週1日以上を休日にすることが定められていますが、「どの休日が法定休日であるのか」については特定する義務がありません。

この点について、改正後は、就業規則や勤務表に具体的な法定休日を明示し、労働者への周知を行うことが義務化されます。

勤務間インターバル制度の義務化

3つ目として、終業から次の始業までに一定の休息時間(原則11時間)を確保する「勤務間インターバル制度」が、努力義務から義務に変更される予定です。

特に夜勤や交代勤務を行う職場では、シフトや勤務サイクルを再設計し、社員の健康を確保する仕組みづくりが求められます。

やむを得ず、残業によってインターバル(11時間)を確保できない場合は、翌日の始業時間を遅らせるなどの対応も求められるでしょう。

年次有給休暇の賃金算定方法の見直し

4つ目として、年次有給休暇を取得した際に支払う賃金について、算定方法を「通常賃金方式」に統一することを目的とした見直しが行われます。

現在は「平均賃金方式」「通常賃金方式」「標準報酬日額方式」の3つの算定方法から企業が任意で選択することが認められていますが、改正後はより分かりやすい基準に一本化される予定です。

企業としては、給与規程や勤怠システムの設定を確認し、適正な算出方式に合わせるなどの対応が必要になるでしょう。

副業・兼業者における割増賃金の通算廃止

副業や兼業をしている人については、これまで「複数の会社で働いた時間を合計(=通算)して、法定労働時間を超えた分を割増賃金として支払う」という考え方が取られていました。

しかし、2026年以降の改正では、5つ目の内容として「労働時間の通算義務が廃止」される予定です。

この改正によって、企業は自社での勤務時間だけを基準に割増賃金を判断すればよくなります。

一方で、労働時間の通算管理においてはこれまで通りに継続されるため、従業員の過重労働を防ぐための体制づくりがこれまで以上に大切になるでしょう。

法定労働時間の特例措置の廃止(週44時間)

6つ目として、法定労働時間の特例措置の廃止が予定されています。

現在、商業や接客娯楽業など一部の業種には「週44時間」の法定労働時間が認められています。

しかし、この特例措置を廃止し、すべての業種で「週40時間」に統一する方針です。

施行までには経過措置が設けられる見込みですが、対象企業ではシフトの再編成や残業時間の管理方法を見直す必要が出てくるでしょう。

就業規則や36協定の改定も求められるため、施行前から準備を進めることが重要です。

労働安全衛生法の改正(2026年4月以降施行予定)

労働安全衛生法の改正(2026年4月施行)

2026年4月以降、労働者の健康と安全を守るための「労働安全衛生法(安衛法)」も改正が予定されています。

今回の見直しは、メンタルヘルスや長時間労働など、心身両面の健康リスクに対応するための内容が中心です。

これまで努力義務にとどまっていた分野の一部が義務化されるなど、注意が必要な点を中心に解説します。

個人事業者等に対する安全衛生対策の推進

これまで労働安全衛生法の適用外だった個人事業者やフリーランスなども、一定の範囲で安全衛生対策の対象に含まれます。

注文者などの企業側には、個人事業者が関わる混在作業において災害を防止する措置を講じる義務が追加される見込みです。

また、個人事業者自身にも、安全衛生教育の受講や災害報告などが求められるようになります。

この改正により、雇用形態にかかわらず、現場全体で安全対策を共有・実践することが必要になるでしょう。

ストレスチェック義務化の推進

現行法のストレスチェックについて、50人未満の事業場では努力義務となっている点が法的に義務化される予定です。

50人未満の事業場でも、外部の産業医や専門機関と連携して、健康管理体制を整えておくことが望ましいとされ、その準備期間も充分に確保されることが予定されています。

法改正は2025年の5月に成立・公布されており、施行日は公布後3年以内とされています。

化学物質による健康障害防止対策の推進

化学物質を扱う事業者に対し、危険性・有害性情報を適切に通知する義務を強化し、違反時には罰則が設けられます。

成分名が企業秘密にあたる場合には、一定の低リスク物質に限り「代替化学名」の通知が認められますが、人体に及ぼす影響については明確に通知する必要があります。

また、作業環境の安全性をより的確に把握するため、作業者個人単位のばく露測定を正式に位置づけ、作業環境測定士など専門職による適切な実施が求められる予定です。

機械・設備に関する安全対策の強化

ボイラーやクレーンなど、重大災害につながる機械設備について、民間登録機関による検査範囲が拡大される予定です。

これにより、民間機関の信頼性を担保するため、不正行為への対応や欠格要件の強化など、監督体制も見直されます。

高齢者の労働災害防止の推進

労働災害の発生率が高い高年齢労働者に対して、事業者が安全確保のための措置を講じる努力義務が新設されます。

国が具体的な措置を示す指針を公表し、企業に対して対応を促す方針です。

労働施策総合推進法の改正(カスハラ対策義務化)

労働施策総合推進法の改正(カスハラ対策義務化)

労働施策総合推進法改正では、顧客などからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に対して、企業が防止措置を講じることが2026年以降に義務づけられる予定です。

相談体制の整備や社員教育・再発防止策の策定などが求められ、特に接客業やサービス業では実務上の影響が大きい内容となっています。

カスハラは、従業員のメンタルヘルスや離職にも直結する深刻な問題です。

企業には「被害を未然に防ぎ、従業員を守るための体制整備」が明確に求められるようになるでしょう。

より詳しい対応策や防止の具体例については、下記の記事で解説しているのでぜひご覧ください。

【関連記事】2026年からカスハラ対策が義務化へ|労働施策総合推進法の改正内容と必要な対策

公益通報者保護法(ホイッスルブロワー法)の改正(2026年以降施行)

公益通報者保護法(ホイッスルブロワー法)の改正(2026年中施行)

公益通報者保護法は、労働者が勤務先などの法令違反行為を通報した際に、そのことを理由として解雇・降格・不利益な取扱いを受けないよう保護することを目的とした法律です。

いわゆる「内部告発」を保護する仕組みで、企業の不正防止やコンプライアンス強化に大きな役割を果たしています。

2026年以降の改正では、以下の4点が変更される予定です。

①通報体制整備の実効性強化
まず、常時300人を超える事業者に対しては、通報対応体制の整備義務が強化される予定です。

これまでの「指導・助言・勧告権限」にとどまらず、命令に従わない場合の刑事罰(30万円以下の罰金)を科す仕組みが設けられるほか、立入検査権限も新設されます。

また、従業員に対して通報体制を周知することが法的な義務となります。

②公益通報者の範囲拡大
次に、通報できる人の範囲が広がります。

これまでの労働者に加え、フリーランスや業務委託契約者も新たに保護対象となる予定です。

③公益通報の阻害行為の禁止
事業者が従業員などに対して、「通報しない」という合意を求める行為は、正当な理由がない限り禁止される予定です。

また事業者が、正当な理由なく、公益通報者の特定を目的とする行為も禁止されます。

④不利益取扱いの抑止と罰則強化
最後に、通報者を守るための罰則も大幅に強化される予定です。

改正後には、通報後1年以内に行われた解雇や懲戒処分は、原則として「通報を理由とするもの」と推定されます。

もし通報を理由に不利益な取扱いを行った場合、個人には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が科される可能性があります。

企業が今から準備すべき実務対応

2026年から、労働基準法・労働安全衛生法・公益通報者保護法・労働施策総合推進法と、複数の労働関係法令が改正されます。

そのため、個別の改正内容を確認するだけでなく、社内全体のルールや運用体制を見直すことが欠かせません。

ここでは、企業が今から着手しておくべき主な準備を整理して解説します。

就業規則・労使協定の改定と届出手続き

法改正により、勤務間インターバルや休日の明確化など、就業規則で明示すべき項目が増える見込みです。

まずは現行の就業規則や労使協定(36協定など)を確認し、法改正後に整合性が取れるよう改定案を準備しておきましょう。

特に、労働時間や休日・副業に関する規定は、企業ごとの実情を反映した内容へアップデートすることが重要です。

安全衛生・通報・相談体制の整備

安全衛生法や公益通報者保護法の改正に対応するためには、体制整備と役割分担の明確化が必要です。

ストレスチェックの対応準備とともに、社内に産業医や衛生管理者がいない場合は、外部の専門家と連携する体制を検討しましょう。

また、通報や相談を受け付ける窓口を社内外に設け、プライバシーを守りながら従業員が安心して声を上げられる環境を整えることが求められるでしょう。

社内周知・研修・マニュアル見直しの進め方

法改正後のトラブルを防ぐには、ルールを整えるだけでなく、従業員全員が適切に内容を理解することが欠かせません。

管理職向けには労働時間管理や通報対応に関する研修を実施し、従業員向けには改正内容をわかりやすく説明する資料を配布するなどしましょう。

特に中小企業では、人事・総務担当者が、複数の法改正を横断的に把握することが大切です。

まとめ

2026年以降に実施される一連の労働関係法改正は、労働基準法・労働安全衛生法・公益通報者保護法・労働施策総合推進法など、多岐にわたります。

施行時期までにはまだ一定の期間がありますが、就業規則や労使協定・安全衛生体制・通報窓口の運用など、準備に時間を要するものも少なくありません。

今のうちから自社の体制を見直し、改正内容に対応できる仕組みを整えておくことが重要です。

もし「どこから手をつければよいか分からない」「改正内容を自社に合わせて整理したい」とお考えの方は、社会保険労務士法人飯田橋事務所までご相談ください。

最新の法改正情報を踏まえ、貴社の業種・規模に合わせた実務対応や就業規則改定のサポートを行っています。

負担が大きい法改正への対応を、専門家とともに早めに進めていきましょう。

目次