年次有給休暇の計画的付与とは?仕組みや導入方法・時季変更権との違いを社労士が解説

年次有給休暇の取得率を上げたいと思っても、「繁忙期に休まれると困る」「人員の調整が難しい」と感じる企業は少なくないでしょう。

そんな悩みを解決するための方法が、年次有給休暇の計画的付与制度です。

計画的付与制度を活用することで、業務に支障を出さずに取得率を促進できます。

本記事では、計画的付与制度の仕組みや導入方法・メリットなどを、社労士の視点からわかりやすく解説します。

計画的付与制度の導入を検討している人事・労務担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

年次有給休暇の計画的付与とは

有給休暇の計画的付与とは

年次有給休暇の計画的付与とは、企業と労働者代表が合意のうえで休暇日を定め、計画的に年次有給休暇を取得させる制度です。(労働基準法第39条第6項)

年次有給休暇は、従業員に取得日を指定する権利(時季指定権)がありますが、すべての従業員が自由に休むと業務に支障が出るケースもあります。

そこで、労使協定を結び、休暇日をあらかじめ設定できるようにしたのが計画的付与制度です。

以下では、より詳しく制度の目的やルールについて見ていきましょう。

計画的付与制度の目的と背景

年次有給休暇の計画的付与制度が生まれた背景には、周りへの気兼ねや申請することで評価に影響するのではないかといったためらいが労働者にあり、そのことで「年次有給休暇の取得率が低い」という課題があります。

日本の年次有給休暇の取得率は、長年50%前後にとどまっていました。

特に中小企業では、人手不足や業務都合により、労働者が好きなときに請求することが難しかったのです。

計画的付与制度は、年次有給休暇を計画的に取得させることで、労働者の健康維持と健全な事業運営を促進することを目的に導入されました。

企業側にとっても、繁忙期を避けた休暇スケジュールをあらかじめ設定できるため、取得率向上と業務効率化の両立が目指せます。

対象となる年次有給休暇日数(5日を除いた日数)

2019年の法改正によって、すべての企業には「年5日の年次有給休暇を必ず取得させる義務」が課されました。

この「5日分」は労働者が時季を指定して取得する必要があり、計画的付与とすることはできません。

例えば、年間10日間の年次有給休暇が付与される場合、企業が計画的付与として設定できるのは5日分までです。

制度を導入する際は、5日分を除いた日数を、どう計画的に運用するかの設計が大切です。

計画的付与の仕組みと運用方法

計画的付与の仕組みと運用方法

年次有給休暇の計画的付与を導入するには、労使協定を結び、就業規則に規定する必要があります。

計画的付与は企業が一方的に決めることはできず、労働者代表等との合意を前提としている制度です。

以下では、導入の流れや代表的な付与パターン、スケジュールの立て方について見ていきましょう。

導入の手順(労使協定の締結から周知まで)

まず最初に、労働者代表または労働組合と「労使協定」を締結します。

労使協定では、次のような内容を取り決めるのが一般的です。

  • 対象となる従業員の範囲
  • 計画的付与の対象日数
  • 付与方法(全社一斉・交代制など)
  • 実施期間

協定を結んだあとは、就業規則に反映し、全従業員に周知します。

3つの付与パターン|一斉付与・交代制・個人別

計画的付与の方式は、企業規模や業務形態によって柔軟に選択できます。

代表的な3つのパターンは、以下のとおりです。

  1. 一斉付与型
    全社員が同じ日に休む方式
    例:夏季休暇・年末年始を年次有給休暇扱いにする
  2. 交代制付与型
    部署ごと・チームごとに順番で休む方式
    生産職や販売職に適している
  3. 個人別付与型
    各社員ごとにあらかじめスケジュールを設定する方式
    柔軟だが管理がやや複雑

どの方式を選ぶ場合でも、労使協定で明確に取り決め、全員に周知する必要があります。

付与スケジュールの立て方

付与日を決める際は、「繁忙期・閑散期」「業務の代替可能性」を確認することが重要です。

1年分のカレンダーを作成し、業務への影響が少ない時期に計画的付与日を配置するとよいでしょう。

例えば、製造業なら設備点検期間、小売業なら決算後の落ち着いた時期などが候補になります。

また、毎年の協定更新時にスケジュールを見直すことで、状況の変化にも柔軟に対応できます。

計画的付与のメリット・デメリット

計画的付与のメリット・デメリット

年次有給休暇の計画的付与は、企業・従業員の双方にメリットがあります。

しかし、制度設計や運用を誤ると、思わぬトラブルを招くリスクがあることも知っておく必要があります。

ここでは、導入によって得られる効果と注意すべきリスクを整理します。

企業側のメリット:業務調整と取得率向上

企業側の最大のメリットは、業務量に合わせて休暇を分散できることです。

繁忙期を避けて付与日を設定することで、業務が滞るリスクを減らせます。

また、企業側が計画的に年次有給休暇を管理することで、有休消化率の向上が期待でき、すべての使用者に対して義務付けられている「年5日の取得」をクリアし、法律違反を回避できます。

企業として年次有給消化率の実績を出しやすく、採用面でのポジティブな影響から行政指導のリスク軽減にもつながります。

従業員側のメリット:休暇取得のしやすさ

従業員側のメリットは、計画的付与であることで安心して休めることでしょう。

休暇日が事前に決まっていれば、家庭の予定や旅行計画を立てやすくなり、チーム内で「誰が休むか」を調整する負担も減ります。

また、全員が一斉に休む方法をとれば、他の社員に気兼ねなく年次有給休暇を消化できるという心理的なメリットもあるでしょう。

デメリット・導入時の注意点

双方にメリットがある一方で、制度運用にはいくつかの注意点があります。

まず、計画的付与は従業員の同意なく、一方的に実施することはできません。

労使協定があっても、本人の都合や家庭事情をまったく考慮しない運用は「不利益な取扱い」と見なされるおそれがあります。

また、計画的付与の対象に含める日数を誤ると、年5日の取得義務分を侵害するリスクもあるため、協定書の内容確認が欠かせません。

導入後も、毎年の見直しや職場ごとの柔軟な調整が必要です。

時季変更権や時季指定との違いと関係性

時季変更権や時季指定との違いと関係性

「時季指定」「時季変更権」「計画的付与」は、運用時に混同されやすいです。

これらはいずれも年次有給休暇の取得時期に関わる制度ですが、主体や目的・行使できる範囲が異なります。

まず、時季指定(時期指定権)は労働者側の権利です。

労働基準法第39条第5項により、従業員は「この日に休みたい」と希望する日を自ら指定することができます。

原則として会社はこれを尊重しなければならず、拒否はできません。

これに対し、時季変更権は使用者側の権利です。

同じく第39条第5項ただし書にて、以下のように定められています。

請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

引用:労働基準法第39条第5項

ただし、「忙しいから」といった理由だけでは認められず、代替要員が確保できないことで正常な事業運営が成り立たないなど客観的に合理的な理由が必要です。

そして、計画的付与は、労使協定であらかじめ休暇日を定める制度です。

つまり、時季指定・時季変更が「個人単位のやり取り」であるのに対し、計画的付与は「組織単位での管理」による制度運用となっています。

計画的付与制度の導入事例と実務での活用ポイント

計画的付与制度の導入事例と実務での活用ポイント

計画的付与制度は、業種や企業規模に合わせて柔軟に運用できます。

以下では、実際の導入事例と、制度を定着させるためのポイントを紹介します。

実際に使われているスケジュール例

多くの企業では、季節休暇や年度の切り替え時期に計画的付与を設定しています。

例えば「夏季休暇を3日間計画的付与とする」「年末年始に全社一斉で2日間休みとする」といった方法です。

これにより、年5日の取得義務を確実に達成できるうえ、労働者も休暇の取得予定を立てやすくなります。

なお、計画的付与は、自由取得分(年5日)を確保した上で、協定に基づいて実施している必要があります。

小規模企業での導入方法

中小企業や人員の限られた事業場では、「交代制付与」「個人別付与」方式がおすすめです。

例えば、1〜2名ずつ順番に休むスケジュールを組めば、同時取得による業務停滞を防げます。

この場合も、必ず労使協定を締結し、誰が・いつ・何日分を計画的付与とするかを明確にしておくことが重要です。

小規模事業所ほど担当者と現場の距離が近いため、個別調整を丁寧に行うことが求められるでしょう。

社内周知と運用見直しのコツ

計画的付与制度の浸透に重要なのは、全社員への分かりやすい周知と、定期的な見直しです。

社内ポータルや掲示板で休暇カレンダーを共有したり、年度末にアンケートを実施して運用改善を図ったりするなどが効果的です。

また、実績データをもとに「繁忙期に偏りがないか」「特定部署に負担が集中していないか」を分析し、翌年のスケジュールに反映させることも欠かせません。

導入して終わりにせず、年ごとに最適化していきましょう。

まとめ

年次有給休暇の計画的付与は、年次有給休暇の取得率を高めながら業務を円滑に進めるためにおすすめな制度です。

労働者の心身のリフレッシュを図ることは業務への意欲につながり、労働生産性を向上させるためにも有効です。

労使協定を結び、就業規則に明記して運用することで、繁忙期の混乱を防ぎつつ社員が安心して休める環境を整えられます。

一方で、労働者の自由取得分(年5日)を確保していなかったり、周知が不十分なまま導入すると協定が無効になりトラブルに発展する可能性もあります。

制度を適切に設計・運用するには、労使双方の理解と合意、定期的な見直しが欠かせません。

計画的付与の導入をしたいが、事業場一斉方式や班ごとの交代制付与方式を採用するが、労使協定で計画した休暇日数が不足する労働者がいる場合はどうしたらよいのか、など協定の内容や運用面でお困りの場合は、社会保険労務士へご相談ください。

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