労働保険(労災保険・雇用保険)に加入している事業者は、毎年「年度更新」と呼ばれる手続きを 行う必要があります。特に、一般的な会社や店舗などの継続事業では、適切な賃金集計と申告・納付が求められます。
本記事では、労働保険の年度更新について、基本的な仕組みや手続きの流れ、計算方法をわかりやすく解説します。電子申請の方法や今年度特有の注意点についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
労働保険の年度更新とは?わかりやすく解説

労働保険の年度更新とは、労災保険と雇用保険に関する保険料について、毎年まとめて申告・ 納付する手続きです。すべての労働保険適用事業場に義務付けられており、前年の実績に基づいて確定精算し、あわせて新年度分の概算申告を行います。ここでは、労働保険制度の基本や年度更新の仕組み、申告手続きの方法について解説します。
労働保険の概要
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称であり、労働者を一人でも雇用している事業主に加入義務がある保険制度を指します。
労働保険の内容は、以下のとおりです。
労災保険 | 業務中や通勤途中に発生した災害により、負傷・疾病・障害・死亡した場合に保険給付を行う制度 |
雇用保険 | 失業時や育児休業・介護休業を取得した際に、生活や雇用継続を支援するための給付を行う制度 |
これら労働保険に関する保険料は、原則として事業主が毎年まとめて申告・納付する仕組みとなっています。
年度更新とは?
年度更新とは、労働保険に加入している事業主が毎年1回、確定精算と次年度見込み分の申告・納付を行うことを指します。保険料は原則として前払い方式です。そのため、1年間の実績に基づき、前年度の確定精算と新年度の概算保険料申告を行う作業が求められます。
たとえば、令和6年度(令和6年4月〜令和7年3月)の賃金総額に基づいて確定保険料を申告する場合、令和7年度(令和7年4月〜令和8年3月)分の概算保険料を見込んで申告する流れになります。また、年度更新は法律(労働保険徴収法)に基づく義務であり、期限内に申告・納付を行わない と延滞金や追徴金が発生するリスクもあるため注意が必要です。
参考:労働保険とは|厚生労働省
年度更新は郵送・窓口・電子申請で対応可能
労働保険の年度更新申告書は、郵送・窓口提出に加え、電子申請(24時間対応・GビズID対応)も可能です。
郵送 | 労働局労働保険特別会計歳入徴収官宛に送付 |
窓口提出 | 管轄の労働局へ直接持参 |
電子申請 | 「e-Gov」経由でオンライン提出可能 |
電子申請は、平日昼間に窓口へ行く必要がなく、自宅やオフィスから手続きできるため、年々利用が広がっています。なお、電子申請を利用するには、事前に「GビズID」などの電子証明書が必要となる場合があるため、期限に余裕をもった準備が重要です。
【令和7年度】年度更新スケジュール

令和7年度の労働保険年度更新の手続き期間は、次のとおりです。
通常地域 | 令和7年6月2日(月)~令和7年7月10日(木) |
指定被災地域 | 期限延長あり(※後日告示予定) |
ここでは年度更新スケジュールの詳細を紹介します。
通常地域は令和7年6月2日~7月10日
令和7年度の労働保険年度更新は、通常地域において6月2日(月)から7月10日(木)までの期間で実施されます。この期間内に、以下の手続きを完了させる必要があります。
● 前年度(令和6年度)確定保険料の申告・納付
● 今年度(令和7年度)概算保険料の申告・納付
年度更新の対象となる賃金には、基本給だけでなく各種手当も含まれるため、集計時には誤りがないよう慎重な確認が求められます。賃金総額の算定ミスや申告漏れが発覚すると、後日修正手続きや追加納付が必要になる場合があるため注意が必要です。
また、7月10日最終日は混雑しやすくなるため、期限に余裕をもった申告が推奨されます。
被災地特例の適用で期限延長が可能
令和6年能登半島地震を受け、厚生労働省は一部地域の事業主に対して、年度更新に関する特例措置を設けています。対象となる事業主は、通常の申告・納付期限(令和7年7月10日)に代えて、延長後の期限までに手続きを行えばよいとされています。
被災地特例の対象地域は、以下のとおりです。
● 石川県 輪島市・珠洲市
● 石川県 鳳珠郡(穴水町・能登町)
対象地域に所在する事業主のもとにも、例年通り申告書が郵送されますが、記載の期限(7月10 日)にかかわらず、延長後の正式な期日までの対応で差し支えありません。
延長された申告・納付期限は、被災者の状況などを踏まえて今後告示される予定です。
なお、通常のスケジュールに沿って6月2日~7月10日の間に申告・納付を行うことも可能です。
年度更新手続きの基本的な流れ(継続事業の場合)

ここでは、労働保険料の算定から申告書の提出、保険料納付まで、基本的な手続きの流れを整理して解説します。
主な流れは次のとおりです。
①賃金集計表を作成 | 対象期間の賃金総額を集計 |
②申告書を作成 | 集計結果に基づき労働保険料を計算・記入 |
③申告書を提出・保険料を納付 | 労働局または電子申請で手続き |
各手順について詳しく解説します。
①賃金集計表を作成する
まずは、対象期間に支払った賃金の総額を正確に集計します。
対象期間は、前年度の4月1日から当年度の3月31日までです(例:令和7年度の申告では、令和 6年4月1日~令和7年3月31日まで)賃金には、以下のような手当や賞与も含む点に注意しましょう。
● 基本給
● 各種手当(通勤手当、役職手当、家族手当など)
● 賞与(ボーナス)
● 時間外手当・休日出勤手当
ただし、出張旅費や見舞金など、労働の対価ではない支払いは除外されます。 正確な賃金集計を行うため、賃金台帳や給与明細、就業規則などの資料を照らし合わせながら作成することが重要です。
参考:令和7年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方|厚生労働省
②申告書を作成する
賃金総額を集計したら、その金額をもとに労働保険年度更新申告書を作成します。作成する申告書には、以下2つの内容を記載する必要があります。
● 前年度(確定分)の保険料
● 今年度(概算分)の保険料
確定保険料は、実際に支払った賃金総額に保険料率を掛けて算出します。 一方、概算保険料は、新年度に支払う見込みの賃金総額をもとに計算します。通常は、前年度の実績を基に概算額を設定するケースが多いでしょう。労災保険料と雇用保険料はそれぞれ計算する必要があり、両方の金額を合算して記載します。 また、特別加入者(中小事業主や一人親方など)がいる場合は、その分の賃金相当額も忘れず に含める必要があります。申告書は、労働局(都道府県労働局)から送付される用紙、またはe-Govサイト上で作成できる申告書フォームを利用しましょう。
③申告書を提出・保険料を納付する
申告書が完成したら、提出と保険料の納付を行います。なお、納付額が一定以上の場合は、概算保険料について分割納付(3期分割)が認められる場合があります。
分割納付ができる条件は、次のとおりです。
● 概算保険料が40万円以上であること(労災保険又は雇用保険のいずれか一方のみの保険関係が成立している事業の場合は20万円以上であること)
● 保険年度の中途で保険関係が成立した事業については、9月30日までに保険関係が成立していること
また、各納期限に間に合わなかった場合は、延滞金が発生するリスクがあるため、各期ごとにスケジュール管理を徹底する必要があります。
労働保険料の計算方法と保険料率

労働保険料は、労災保険料と雇用保険料を合算して算出し、それぞれの保険料は対象となる賃金総額に対して、所定の保険料率を乗じることで計算できます。
ここでは、労働保険料の基本的な算出方法と、適用される保険料率について解説します。
労災保険料率
労災保険料は、業種ごとに異なる労災保険料率を用いて算定します。
料率は事業の危険度に応じて設定されており、たとえば建設業などは高く、事務系業種は比較的低く設定されています。
労災保険料の計算式は、「労災保険料 = 賃金総額(千円未満切り捨て) × 労災保険料率」です。たとえば、賃金総額が1,000万円、労災保険料率が0.3%の事業所の場合、「労災保険料=10,000,000円 × 0.003 = 30,000円」となります。なお、労災保険料は全額を事業主が負担する仕組みです。
参考:令和7年度の労災保険率について(令和6年度から変更ありません)|厚生労働省
雇用保険料率
雇用保険料は、政府が毎年度定める雇用保険料率をもとに算定されます。 雇用保険料は、事業主と従業員の双方が負担する点が、労災保険との大きな違いです。
雇用保険料の計算式は、「雇用保険料(事業主負担分+従業員負担分)= 賃金総額 × 雇用
保険料率」です。たとえば一般の事業で賃金総額が1,000万円の場合、「雇用保険料 = 10,000,000円 ×0.0145 = 145,000円」となり、これを事業主と従業員で按分して負担します。
年度更新で注意すべきポイント

労働保険の年度更新では、正確な申告と納付を行うために、いくつか注意すべきポイントがあります。ここでは、特に誤りが起こりやすい点や、手続き時に気をつけたいポイントを整理して解説します。
申告書の訂正ルールに注意する
提出後に申告書の内容に誤りが見つかった場合、訂正申告を行う必要があります。訂正が必要になった場合でも、放置せず、速やかに所定の手続きを行うことが重要です。
正しい賃金額を反映する
賃金集計時には、対象期間のすべての支払いを正確に反映させることが重要です。 たとえば、時間外手当や通勤手当、賞与なども対象に含める必要があります。賃金台帳や給与明細と照らし合わせながら、漏れや二重計上がないよう慎重に確認しましょう。 集計ミスにより、後日追加納付が発生するリスクを防ぐためにも、賃金額の正確な反映は不可欠 です。
特別加入者の賃金も集計する
労働保険には、一定の条件を満たす事業主や役員が加入できる特別加入制度があります。特別加入している場合は、年度更新時に特別加入者の賃金相当額も集計し、申告に含める必要があります。特別加入者については、あらかじめ定めた賃金額(任意設定)を基に保険料を算出するため、 誤った金額を記載しないよう注意が必要です。
まとめ
労働保険の年度更新は、すべての適用事業所に義務付けられている重要な手続きです。 前年の賃金総額に基づく確定保険料の申告と、今年度分の概算保険料の申告・納付を期限内に行う必要があります。申告書作成時には、賃金集計の正確性や申告内容の記載漏れに注意し、特別加入者の賃金も忘れずに含めましょう。
手続きの遅延や誤りは、延滞金や追加納付といったリスクを招くため、早めの準備と慎重な対応が求められます。本記事を参考に、スムーズに年度更新を完了させましょう。