【2025年4月開始】育児時短就業給付金・出生後休業支援給付金とは?企業の対応ポイント等を解説

育児時短就業給付金と出生後休業支援給付金は、育児と仕事の両立を支援するために設けられたものであり、対象労働者への適切な対応が企業にも求められるようになります。
しかし、これらの給付金には支給対象者の要件や、賃金水準に応じた細かな支給調整ルールが存在し、事務手続きも煩雑です。
本記事では、育児時短就業給付金・出生後休業支援給付金の概要を整理するとともに、企業が対応するうえで押さえるべきポイントを解説します。

目次

育児時短就業給付金とは?概要や対象者を紹介

母親の手を握る赤ちゃんの手

まずは、育児時短就業給付金の概要と対象者、企業の実務負担について解説します。
参考:「育児時短就業給付金」を創設します|厚生労働省
参考:育児時短就業給付の内容と 支給申請手続|厚生労働省

育児時短就業給付金の概要


育児時短就業給付金は、2025年4月から新たに開始される育児支援制度です。
2歳未満の子どもを養育する従業員が、所定労働時間を短縮して働く場合に、賃金低下分を補うために支給されます。

具体的な支給内容は以下のとおりです。

支給額時短就業中の各月に支払われた賃金額
の原則10%相当額
支給調整支給額と賃金額の合計が、育児時短就
業開 始時賃金月額を超えないように調整
支給限度額459,000円(2025年7月31日まで)
最低支給額2,295円(2025年7月31日まで)

育児時短就業給付金は、賃金水準によって支給率が変動する仕組みが採用されています。
たとえば支給対象月の賃金額が時短就業開始時賃金月額の90%以下であれば10%を支給
90%超〜100%未満の場合は調整式に基づき支給率が計算されます。
これは、従業員の仕事と育児の両立を後押しするとともに、企業に対しても新たな労務管理対応が求められています。

育児時短就業給付金の対象者

夫婦と赤ちゃん

育児時短就業給付金の支給対象となるのは、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者 に該当する従業員であり、次の条件を満たす必要があります。

・育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き、同一の子について
 育児時短就業を開始している
または
・育児時短就業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数11日以上
 (または支払基礎時間数 80時間以上)の完全月が12か月以上ある


加えて、支給対象となる各月についても、次の①~④すべてを満たす必要があります。

1. 月の初日から末日まで雇用保険の被保険者であること
2. 1週間あたりの所定労働時間を短縮して就業していること
3. その月に育児休業給付または介護休業給付を受給していないこと
4. その月に高年齢雇用継続給付の受給対象になっていないこと


また、ここで注意が必要なのは、時短勤務の取り扱い範囲です。
単純に1日の所定労働時間を短縮するケースに限らず、週の所定労働日数を減らして結果的に週労働時間を短縮する場合や、フレックスタイム制や裁量労働制において総労働時間を短縮する場合なども時短勤務として扱います。

一方、短縮後の週所定労働時間が20時間を下回る場合は、原則として雇用保険の被保険者資格を喪失するため、給付対象外となります。
ただし、例外として「子が小学校就学始期に達するまでに週所定労働時間20時間以上に復帰することが就業規則等で確認できる場合」に限り、対象継続が認められる場合があります。
企業側では、従業員の就業形態や労働時間制度を正確に把握したうえで、対象可否を慎重に確認し、必要な手続きを遅滞なく進めることが重要です。

特に、フレックスタイム制やシフト制を導入している企業では、
週平均労働時間の算定方法に注意しましょう。

育児時短就業給付金の実務負担

女性二人のビジネスシーン

育児時短就業給付金は、従業員を支援する制度である一方、企業側にも一定の実務負担が発生します。特に、正確な申請手続きと管理体制の構築が求められる点に注意が必要です。

企業が対応すべき主な手続きは、以下のとおりです。

育児時短就業開始時賃金の届出時短勤務開始時点の賃金情報を
ハローワークに届け出る
受給資格確認支給対象となる従業員かどうかを確認し、
資格確認票を提出する
支給申請原則2か月ごとに支給申請書を提出し、
支給対象月ごとに賃金証明を行う

〇具体的な実務作業
・賃金台帳や出勤簿、タイムカードなど、賃金支払状況と労働時間を証明する書類の整備・提出
・各支給対象月ごとに、時短勤務の継続状況を確認し、支給条件を満たしているかを精査
・週所定労働時間20時間未満などの特例に該当する場合は、就業規則等による裏付け書類の用意

育児時短就業給付金は支給対象月の初日から4か月以内に申請しなければならないため、
スケジュール管理も厳格に行う必要があります。
申請が遅れると、たとえ支給対象であっても給付金を受け取れない可能性があるため、
企業側のミスによる不利益を防ぐ体制づくりが重要です。

また、従業員本人から希望があれば、本人が直接申請することも認められていますが、その場合でも企業側には「育児時短就業開始時賃金の届出」の義務が残るため、完全に負担が免除されるわけではありません。

出生後休業支援給付金とは?

次に、出生後休業支援給付金の概要と対象者、企業の実務負担について解説します。
参考:育児休業等給付について|厚生労働省

出生後休業支援給付金の概要

出生後休業支援給付金は、2025年4月から新設される育児支援給付の一つです。
この給付金は、出生時育児休業中に賃金が低下することに対して支援を行うものであり、従業員の育児とキャリアの両立を後押しする制度設計となっています。
2025年4月1日より出生時育児休業給付金または育児休業給付金の支給を受ける方が一定の要件を満たすと「出生後休業支援給付金」の支給を受けることができます。

出生後休業支援給付金の支給要件

1. 同一の子について、出生時育児休業給付金が支給される産後パパ育休(出生時育児休業)を通算して14日以上取得した被保険者であること
2. 被保険者の配偶者が子の出生日の翌日において「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当していること、または、被保険者の配偶者も産後パパ育休の期間に通算して14日以上の育児休業を取得したこと

支給額 = 休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数(28日が上限) × 13%


ただし、出生時育児休業期間の対象として事業主から、
休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数の80%以上の賃金が支払われた場合は支給されません。
出生後休業支援給付金の実務負担出生後休業支援給付金の支給を受けるためには、企業側にも一定の実務対応が求められます。
特に「産後パパ育休(出生時育児休業)」の取得促進に合わせた社内整備と、正確な手続き管理が不可欠です。

企業が担う主な実務負担は次のとおりです。

休業制度の整備出生時育児休業(産後パパ育休)取得を
前提とした社内規程・制度の整備
制度周知と案内従業員への育児休業制度・給付金制度に関する案内、取得希望受付
賃金管理休業期間中の賃金水準を管理し、休業前賃金との比較を行う
支給申請関連必要書類(申請書等、賃金証明など)の
作成・ 提出

出生後休業支援給付金を受給するためには、休業中の賃金支払額が休業前賃金の80%未満であるかを確認し、適切に申請書類へ反映させることが求められます。

そのため、企業の実務担当者には、次のような追加負担が発生します。

・賃金台帳や勤務実績表を活用して、休業期間中の賃金を証明する
・出生時育児休業の取得実績を管理し、必要な期日内に支給申請を行う
・休業中・復帰後の就業管理に関して、従業員との情報共有を徹底する



出生後休業支援給付金は新設された制度のため、企業によっては申請や管理に戸惑う場面も考えられます。
スムーズな対応のため、必要に応じて社労士などの専門家にアドバイスを求めながら、段階的に 体制を整えていくと安心です。

育児休業給付金等との違い

パソコンを触る女性

育児時短就業給付金や出生後休業支援給付金は、従来の育児休業給付金とは支給の目的や 対象、支給率が異なります。
以下の比較表では各給付金の違いをご確認いただけます。

給付金名支給期間支給額主な目的
育児休業給付金原則1歳未満
(最大2歳まで
延長可能)
休業開始から180日目まで賃金の67%、181日目以降は50%育児休業中の収入補填
出生時育児休業給付金生後8週間以内
(最大28日間)
休業開始前賃金の67%産後パパ育休の取得
促進
出生後休業支援給付金(新設)子の出生後8週間以内(最大28日間)休業開始前賃金の13%夫婦による育児休業取得の促進(上乗せ支給)
育児時短就業給付金(新設)時短勤務中(子が2 歳になる月まで)時短勤務中の賃金の10%時短勤務による収入減を補填

育児休業給付金は、育児のために長期休業する従業員を対象に、収入補填を目的として支給される制度です。支給額は休業開始から180日目までは67%、それ以降は50%に設定されています。

出生後休業支援給付金は、2025年4月に新設された制度であり、両親がともに育児休業を取得した場合に、上乗せ支給(休業開始前賃金の13%)される仕組みです。単独での受給はできず、 育児休業給付金または出生時育児休業給付金と併用して支給されます。

育児時短就業給付金も同じく新設された制度で、時短勤務によって賃金が低下した従業員を支援するものです。支給額は時短勤務中の賃金の10%となり、休業中ではなく就業中に支給される点が特徴です。
参考:育児休業等給付について|厚生労働省

企業が育児時短就業給付金等に対応するポイント

育児時短就業給付金や出生後休業支援給付金は、企業に適切な制度運用が求められます。
ここでは、企業が育児時短就業給付金等に対応するポイントを解説します。

就業規則・育児休業規程の整備

2025年4月以降は、育児時短就業給付金や出生後休業支援給付金に対応したルールも、社内規程に反映しておく必要があります。
就業規則には、次の内容を明記することが有効です。

・出生時育児休業(産後パパ育休)の取得手続き
・時短勤務への変更手続きと条件
・週所定労働時間が20時間未満となった場合の取り扱い
・時短勤務後の復帰条件(特例措置に備えて)

事前に制度内容を就業規則に落とし込むことで、トラブル防止にもつながります。

社内周知と従業員への制度案内

対象となり得る従業員に対して、制度の存在と利用方法を周知しておくことが重要です。
男性従業員の産後パパ育休取得促進に向けた周知は、企業イメージ向上にもつながります。
社内周知の具体的な方法は、次のようなものが挙げられます。

・社内ポータルや掲示板で制度概要を案内
・育休取得希望者向けガイダンスの実施
・出産予定を報告した従業員に対して個別に案内

適切なタイミングで情報提供を行うことで、従業員の不安を和らげ、制度利用を促進できます。

管理職・人事担当者への教育

育児休業や時短勤務への理解を深めるためには、管理職や人事担当者への研修も有効です。
具体的には、以下のような内容を押さえた研修が推奨されます。

・育児休業等給付の基本知識
・育休・時短勤務申出時の対応方法
・就業規則に基づく手続きフロー
・取得者への適切なコミュニケーション手法

なかでも従業員からの申し出に適切に対応しない場合、思わぬ法令違反や職場内でのトラブルを招くおそれがあります。
制度の趣旨を共有し、前向きに受け止める姿勢を醸成することが重要です。

書類管理・スケジュール管理の徹底

育児時短就業給付金や出生後休業支援給付金では、支給対象となる各月ごとに申請が必要となるため、正確な書類作成と厳格なスケジュール管理が欠かせません。
申請に必要な主な書類は以下のとおりです。

・賃金台帳、出勤簿、タイムカード等(賃金支払状況・労働時間を確認できるもの)
・育児休業申出書、育児時短就業申出書
・育児休業・育児時短就業に関する就業規則や労働条件通知書

また、支給申請には厳格な提出期限が定められています。

育児時短就業給付金支給対象月の初日から起算して4か月以内に申請
出生後休業支援給付金子の出生日から8週間を経過する日の翌日以降、2か月以内に申請

申請遅れによる給付金の不支給を防ぐためにも、対象従業員ごとに管理台帳を作成し、手続きの進捗を一覧で把握できる体制を整えておくことが重要です。

まとめ

育児時短就業給付金と出生後休業支援給付金は、育児と仕事の両立支援を目的に新設された制度です。企業には、就業規則の整備や適切な制度案内、書類管理、スケジュール管理など、 確実な対応が求められます。

新制度は支給要件や申請期限が厳格に定められているため、初動から正しい情報収集と体制づくりを進めることが重要です。
必要に応じて社労士など専門家のサポートを受けながら、従業員支援と企業リスク管理の両立を図りましょう。


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