一総務担当から考える従業員の健康管理

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国により違う医療体制

4月の初めから書き始めたこのテーマは、この2ケ月半の間に新型コロナウイルス感染が世界を飛び交ったために内容がどんどん変わってしまった。果ては人類の生存にとって医療が紛れもない存在であることも改めて実感し、身近な医療機関の大切さを感じた。

 新型コロナウイルスは中国から拡大したが、グローバル化した世界にとって全地球上に瞬く間に拡大した事はいうまでもない。特に医療保険を持たないアメリカという国で、貧困層を中心に世界の3分の1までの感染者と死亡者を出していることは、机上では予期はしていたとはいえ、あまりにも悲惨な事である。医療の大切さ、日本の優れた国民皆保険は、アメリカと比較したとき、何としても守らなければならないと感じる。そして今回のコロナ感染は期しくも、昨今の社会保障緊縮財源政策の下での、保健所等の縮小による弊害が浮き彫りとなった。国民一人一人が今回の状況を、自分の事として、どうしてPCR検査等が遅れたのか?対応出来なかったのか?を医療政策全般を通して考えてみる必要性があると切に思った。

従業員の健康管理と労働生産性

 そして今回私は、企業に働く従業員の健康管理(健康で文化的な権利(憲法25条))について「今後どう行なっていったら良いのか?」を、当事務所や関係事業所先の例を参考に、考えてみた。

とういうのは、企業は従業員が健康でなければ生産性は上がらない、又、企業の発展も勿論望めない、労使一体となった健康管理の必要性は重要である。それらを抱合するように、昨年から健保組合や協会健保で、健康企業宣言の取組み(企業が応募→8割チエック項目クリア→ロゴマークの付与)も始まった。そして昨年4月1日より、働き方改革による新安全衛生法では、「産業医・産業保健機能の強化」「産業医への情報提供の事業者への義務づけ」が施行され、産業医の重要性が一層強まっている。

労働安全衛生法(略して「安衛法」)では、企業に雇入れ時と毎年の健康診断を義務づけている。加えて深夜業に働く業種では年に2回健診がある。健診で異常が見つかった場合、医療機関での再検査が指示される。又、就業に対して重篤な欠陥等が見つかった場合、労災法での二次健診も受診できるしくみとなっている。二次健診は労働局の管轄なので、申請を出すことにより、全額労災での受診が可能だ。

総務担当としてここ数年気になること

ここ数年、総務担当者として十数人の健診を担当して来て、気になっていることがある。指摘が無い(A)に該当する人の割合が少ない事、結果報告で要検査や要治療(3ヶ月から半年の間)に指摘された人に対して本人に伝えたきり(本人次第とは言え)曖昧状態のままにしていることだ。大規模事業所で産業医がいれば、勿論こんなことにはならないのだろうが、小規模事業所では総務担当の裁量になってしまう。安衛法の個人票では、医師の診断、医師の意見欄が必須項目となっているのに対して、健康保険ではこの欄がない。医師の問診・診察はなされてはいるのに、何故所見(印)欄が健診結果表には無いのか?安衛法での診断項目は、より就業との関係が重視されているので、最低限項目を絞って健診個人票に設けている、に対して健保は、消化器系や腹部等も加味され、検査項目が身体全般に及ぶ。そこで就業全てとの関係を網羅するのは容易ではないからと。

今年の健診で旧社会保険病院から「結果報告は、個人情報になるので、従業員宛に1部のみ送ります」という通知が来た。「事業所が必要であれば本人の同意書を取り、送ってください」と。但し、「安衛法に基づく検査項目のみの報告書であれば、同意書は必要ないので、その旨連絡ください」と。この通知について会社から相談が来てツラツラ思う。その範囲であれば、事業所は現在行っているような消化器系や腹部等を省略(本人のオプション=自己負担)にしても良い?という選択もありえる。その方が資金繰りの大変な中小企業にとっては、経費的には助かる?

最近の事業所への監督署の呼び出しの中で、安衛法の改正等もあり、健診に対する指摘が強化されている。血圧など二次検診の一部に該当する項目の値が多かった事業所の従業員(産業医の選任していない会社)に対して、地域産業保健センターに「健康診断の結果についての意見聴取」と、相談指導内容欄の就業区分(1、通常勤務可、2、就業制限、3、要休業)についての診断をもらってくるように指導されたケースが数社あった。

従業員の健康アップに向けて

当事務所も、産業医の選任人数の規模には至っていないので、今後もし何がしかの案件で監督署の調査にあたった場合、通常の健診後、労災の二次健診に該当するような従業員が出て病院等で指摘項目の治療をやっていなかった場合、上記のような指摘を受ける可能性も想定される。これらを踏まえると健診センター(当事務所の場合は協会系)に、健診結果後の医師の意見聴取欄の記入用紙を作成し、当該診断結果表を送ってもらえる事が必要になるので、今準備を始めた所ではあるが、協会健保の健診センターでは、産業医を選任していない事業所でも、「健診結果報告依頼書」を申し込めば監督署へ提出する内容で「報告書」を送って貰えることになった。よって今後は所見欄を確認しながら、従業員に対して今後の対応の吟味が出来るという安心を得た。

又、昨今の業務改革を踏まえると、健診の申込みから結果のデータ管理まで、当事務所にかかわらずクラウド管理システムが必要となる。

又、今後のコロナ対策で、労働局では「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」を作成している。第2波に備えて当事務所でも早急に準備開始である。 

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