新型コロナウイルスの感染・感染が疑わしいケースの傷病手当金申請の注意点(3/3)

前回の記事『新型コロナウイルスの感染・感染が疑わしいケースの傷病手当金申請の注意点(2/3)』では、2020年3月6日に掲載された協会けんぽの「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」のポイント解説を中心にお話ししました。最終回の今回は、2020年3月10日付厚生労働省の事務連絡書面「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者に対する傷病手当金の支給について」の内容に触れたいと思います。

目次

内容のポイント

新型コロナウイルスの感染が拡大している中、健康保険制度の傷病手当金の支給の流れを一部変更することが決定しました。具体的には『やむを得ない理由により医療機関への受診を行わず、医師の意見書を添付できない場合には、支給申請書にその旨を記載するとともに、事業主からの当該期間、被保険者が療養のため労務に服さなかった旨を証明する書類を添付すること等により保険者において労務不能と認められる場合、傷病手当金を支給する扱いとする。』(上記Q&Aより抜粋)とし、医師の証明書がない場合であっても、それに代わる手続きを踏むことで要件を満たせば支給対象とすることとなりました。

公的医療保険制度は大きく分けると3つあり、職場を通して加入する「健康保険」と75歳以上の方が加入する「後期高齢者医療保険」、それ以外の方が加入する「国民健康保険」があります。3月6日付書面の対象者は「健康保険」の被保険者であり、具体的には協会けんぽに加入する被保険者、大企業等が独自に設立する健康保険組合、業種等で加入ができる健康保険組合等の被保険者です。ここには、国民健康保険の被保険者、国民健康保険組合の被保険者(加入者とも言います)、後期高齢者医療の被保険者は含まれていません。国内の感染拡大防止の観点から、今回、国民健康保険被保険者、国民健康保険組合の加入者、後期高齢者医療被保険者についても、新型コロナウイルス感染症に感染するなどした被用者に対し、保険者が傷病手当金を支給する場合に、国が特例的に特別調整交付金により財政支援を行うことが決定しました。

このように説明すると、この決定が『特別なこと』とは感じにくい方もいらっしゃるかもしれませんが、国民健康保険や国民健康保険組合、後期高齢者医療保険には傷病手当金の制度がありません。

私たち社会保険労務士が事業所様等に「会社で加入する健康保険」と「市区町村の国民健康保険」の違いをご説明させていただく際、まず挙げるのが「会社の健康保険には傷病手当金という私傷病で労務不能の場合に受けられる生活保障の制度があるのに対し、市区町村の国民健康保険にはない。」という点ですので、今回の決定に大変驚きました。

正確には「制度がない」のではなく条例や規約で定めるところにより、国民健康保険についても傷病手当金の支給をおこなうことができるとなっています。ただし、現実的には「任意給付」であることから、各市区町村や国民健康保険組合、後期高齢者医療広域連合が傷病手当金の給付をおこなっていないといえます。

今回の最大のポイントは、国が「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策第2弾」として、市区町村、国民健康保険組合、広域連合に対し、任意給付の傷病手当金の支給を検討して欲しい、そしてその支給額を全額特別調整交付金として財政支援するとした点です。

今回の傷病手当金の対象者・支給額

対象者:

   被用者のうち、新型コロナウイルス感染症に感染した者、又は発熱等の症状があり感染が疑われる者

  ※「被用者」とは他人に雇われている人という意味ですので、ここで言う「被用者」については、「働いているが勤務先の健康保険には(加入要件を満たさない等で)加入をしておらず、市区町村の国民健康保険に加入している方」、「(健康保険組合ではなく)国民健康保険組合に加入している方」、「現在も会社に勤務しているが、75歳になった時点で会社の健康保険の資格を喪失し後期高齢者医療被保険者となっている方」などをイメージしていただくと分かりやすいのではないかと思います。

 国民健康保険、国民健康保険組合、後期高齢者医療の被保険者全員が対象ではありません。

「働いているが勤務先の健康保険には(加入要件を満たさない等で)加入をしていない方」であっても、家族の扶養の範囲内で働いている人は、会社の「健康保険」の被扶養者であり、国民健康保険の被保険者ではないため含まれていません。

     

支給要件:

   労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間

支給額:

直近の継続した3ヵ月間の給与収入の合計額を就労日数で除した金額 × 2/3 × 日数

※上記の支給額について、特別調整交付金により財政支援

適用期間:

令和2年1月1日~9月30日の間で療養のため労務に服することができない期間

※ただし、入院が継続する場合等は健康保険と同様、最長1年6月まで

まとめ

今回、2020年3月10日付の事務連絡書面の内容及び別添『新型コロナウイルス感染症に関する国保・後期高齢者医療における傷病手当金の対応について』を中心に説明をしました。

国が市区町村、国民健康保険組合や広域連合に対し、任意給付の傷病手当金の支給を検討して欲しい、その支給額を全額特別調整交付金として財政支援するとした今回の決定が、どの程度実施されるのか、今後の動向が気になるところです。

手続きについてはご本人様が直接、加入する保険者に対しおこなうことになります(国民健康保険組合については事業主がおこないます)が、事業主は上記の情報提供と合わせて、申請の際に添付資料として賃金台帳・タイムカード等が必要となってくる可能性がありますので、従業員から求めがあった場合は対応をする必要が出てくるでしょう。

(2020年5月1日加筆: 市区町村等のホームページを見ますと、支給申請書に事業主の証明欄があり、賃金額・出勤状況につき事業主が記載し証明をすることで、添付資料は不要とする取扱いとしている市区町村が多いようです。)

4月は国民健康保険等の窓口についても混雑が予想される時期です。新型コロナ感染症の拡大防止対策・窓口の混雑緩和策として、今年は手続きの一部を郵送でも受け付けるなど柔軟な対応をしていることも予想されます。まずは電話でお問い合わせをされることをお勧めいたします。

この記事を書いた人

社会保険労務士 田口 温美

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