新型コロナウイルスの感染・感染が疑わしいケースの傷病手当金申請の注意点(1/3)

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、政府が臨時休校・臨時休園を要請したり、企業に対しては在宅勤務、時差出勤を要請するなど、さまざまな対策が講じられています。

そのような中、健康保険制度の「傷病手当金」の支給・申請方法について、従来の申請の流れとは異なる取扱いがなされることが決定しました。

2020年3月6日に掲載された協会けんぽの「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A」の内容に触れつつ、普段からもご質問・お問い合わせが多い「傷病手当金の申請の流れと給与計算処理」についても簡単にご説明したいと思います。

大企業等が独自で運営する健康保険組合、業種による健康保険組合等に加入の方につきましては、求められる添付書類・申請方法、上乗せ給付等、一部異なる可能性がありますので、加入する健康保険組合の運用に沿って手続きを進めていただけたらと思います。

目次

傷病手当金の概要

「傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。」 (協会けんぽHPより抜粋)

とあるように、病気で収入がなくなった場合の生活保障の制度です。

同じく協会けんぽのHPには要件として

(1)業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

(2)仕事に就くことができないこと

(3)連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

(4)休業した期間について給与の支払いがないこと

とあり、業務上であれば労災での申請となるため対象外とし、業務外のいわゆる私傷病等で労務不能で休業した4日目からが支給対象となっています。

※1~3日目までは「待期期間」となり支給されません。また待期期間は連続した3日間であることが必要です。

 ※1~3日目については、給与計算時には欠勤控除をするか、本人が希望する場合は有給休暇を消化することで処理することが一般的です。

 ※待期期間が有給・無給であっても構いません。あくまでも連続していることがポイントです。

従来の手続きの流れ

≪従来の流れ≫

①  協会けんぽのホームページから健康保険傷病手当金支給申請書をダウンロードし入手する〈被保険者 or 会社の総務担当者等〉

◇被保険者の氏名・生年月日等は医療機関に提出する前に記入しておきましょう

②  被保険者が医師に医師の証明欄の記入を依頼する 〈被保険者〉

(支給申請書に医師の証明欄(意見書)があり、診断により労務不能であった場合はその旨の記載を医師が記入します。)

③  医師の証明欄記入後の申請書に、つづいて事業主欄の証明をもらうため、事業主または会社の総務担当者等に申請書を渡す。〈被保険者〉

④  事業主は被保険者が会社を休業した期間についての証明をする 〈事業主〉

事業主は被保険者が休業した期間について証明をしますが、前提として医師の証明する期間※=支給の対象となる期間となるため、実際に病気が原因で出勤ができず、病院には行かず自宅で療養していた期間については、支給対象とはならないことを理解した上で休業期間を記載することになります。(被保険者本人もこの点を理解しておく必要があります。)

※医師の証明する期間の初日~3日目は待期期間のため支給対象には含まず、4日目以降を指す

傷病手当金は、医師による「労務不能の証明」が受けられ、実際に労務不能のため休業をしていて給与の支給が受けられなかった日の4日目以降について支給が受けられるものです。

※特例として、医師が既往の状態を推測し初診日前の期間についても労務不能と証明した場合、協会けんぽの方で審査をして特別に認めることもあります。

なお、休業期間が1ヵ月以上の長期にわたる場合は、1ヵ月程度の期間ごとに(数回に分割して)申請するのも良いかと思います。3ヵ月休業した場合、3ヵ月経過してから傷病手当金の支給申請をしたとすると、その期間の給与の支給はなく、傷病手当金についても支給決定が出てからの受給となるため、生活に支障をきたすおそれがあります。

分割する期間については、歴月や初診日からの1ヵ月単位とする方法もありますが、医師の証明期間を勤務先の給与計算期間に合わせる方法もあります。この場合、申請書を提出できるようになる日を待つ期間が短くできるメリットがあり効率的といえます。

傷病手当金は申請書を協会けんぽに提出後(郵送が一般的です)、審査を受け、実際に本人に傷病手当金が支給されるまでの期間を協会けんぽHPで約2週間と記載していますが、書類の不備があった場合はそれ以上掛かりますので、長期間の休業になる場合は、1ヵ月単位等の数回に分けて申請する方法をお勧めしています。

■給与の計算期間と申請までのイメージ■

例) 末日締め、翌月20日支給

  初診日:2020年3月3日

  3/4~3/9まで通常勤務し、医師の指示で3/10~3/31まで休業

  (3/10~3/31のうち3/10~3/21は入院、3/22~3/31までは自宅療養をし

     4/1に職場復帰し以降は就労した。)

⇒ 4/1以降、医師に証明欄の記入を依頼する

(3/10~3/31が労務不能の証明期間であれば、3/31を過ぎないとその期間が労務不能であったと証明できないため

 3/10~3/31に応当する賃金計算期間は3/1~3/31、この期間の給与支給日は4/20、

休業した3/10~3/31の給与が『実際に支給されなかった』ことが確定するのは4/20の支給日が到来し、実際に支給を受けなかった事実をもって判断されるものですので、事業主が協会けんぽに申請書を送付する時期は4/20頃となります。

⑤  支給申請書の必要記載事項を埋めたうえで、会社から協会けんぽに申請をし、審査を経て支給決定・不支給決定が出る。

※協会けんぽの場合、支給申請書に記載した本人口座に傷病手当金が支給(振込み)されます。

※給与計算はこの期間につき、勤怠の実績に沿って計算をすればOKです。

休業期間を有休消化と欠勤控除で処理することが多いと思われますが、休業4日目以降の期間についても有給休暇を消化した場合、有給休暇を消化した日は支給されず、給与の支払いがなくなった日からが傷病手当金が​​​​​​​支給される日となります。

※給与が支給されている間は、傷病手当金は支給されません。ただし、給与の支払いがあっても傷病手当金の額より少ない場合はその差額が支給されます。

※協会けんぽについては2016年4月1日以降、賃金台帳及び出勤簿については添付が不要となっています。

添付書類については、支給申請書のダウンロードができる同ページ内の記載例の中に一覧で記載されていますので、こちらで確認しましょう。

従来の手続きと異なる点

従来の流れと異なる点はというと、

上記②の『被保険者が医師に医師の証明欄の記入を依頼する 〈被保険者〉』がやむを得ない事情等で受けられなかったケースでも、今回支給対象となったことです。

続いて『新型コロナウイルスの感染・感染が疑わしいケースの傷病手当金申請の注意点(2/3)』では、Q&Aのポイント解説をしていきます。

この記事を書いた人

社会保険労務士 田口 温美

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