
労働条件の不利益変更としては、次のようなものがあります。
労働協約の改定による労働条件の不利益変更
労働協約により、労働条件が不利益に変更された場合、原則として、労働協約によりそ
れまで有利であった条件や労働契約は無効とされ、当該労働組合の組合員の労働条件は、労働協約が定めた水準(不利益な)となります。
既に発生している具体的な権利(弁済期の到来している未払い賃金など)を、事後に締結した労働協約によって遡及して適用することにより不利益に変更することは出来ません。
労働協約が特定の、または一部の組合員をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結された場合は、当該組合員に対する労働協約の規範的効力は否定されます。
(参考判例
朝日火災海上保険事件 最判H9.3.27)
その他、判例により不利益変更が無効とされた事例
公序良俗に違反する労働協約の条項は無効とされます。
(参考判例 日本シェーリング事件 最判平1.12.14、日産自動車事件 最判昭56.3.24)
個々の労働者の授権が必要であるのに、授権がなく締結された労働協約は効果が及びません。
(参考判例 北港タクシー事件 大阪地判昭55.12.19)
労働組合内部の民主的手続や内容の合理性を欠く場合は労働協約の規範的効力は否定されます。
(参考判例 中根製作所事件 東京地判平12.7.26)

労働協約の不利益変更の効力が及ぶ者の範囲は、原則として当該労働組合の組合員です。しかし例外として、労働協約の拡張適用(事業所単位の一般的拘束力)により、他の労働者にも適用される場合があります。
ただし、未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合員の資格を認められているか否かなどに照らし、適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情がある時は適用されないとされています。
(参考判例 朝日火災海上保険事件 最判平8.3.26)
就業規則の変更による労働条件の不利益変更
新しい労働契約法(労契約法第9条)では、「労働者と合意なしに、労働者に不利益な労働条件とする就業規則の変更は原則としてできない。」ただし、次の諸点に照らして就業規則の変更に合理性が認められる場合は、労働者との合意なしに変更が可能としました。(労契約法第10条)
労働者の受ける不利益の程度
労働条件の変更の必要性
変更後の就業規則の内容の相当性
労働組合等との交渉の状況
その他就業規則変更に係わる事情
以上の点を総合的に考慮して判断すべきとしています。 就業規則の不利益変更が許容されるか否か、最高裁が列挙した基準に照らして合理性の有無を考慮することが必要です。
(参考判例
第四銀行事件 最判 H9.2.28)
(その他の参考判例 秋北バス事件 最判昭43.12.25、大曲市農協事件 最判昭63.2.16)
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労働協約も就業規則もない場合の個別的合意による労働条件の不利益変更
個別の合意には、それが労働者の自由な意志に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り有効とされます。
(参考判例 更正会三井埠頭事件 東京高判 平12.12.27)
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変更解約告知(同意しない労働者は解雇条件付不利益変更通知)
使用者が労働者に労働条件の切り下げを申し入れ、それに同意しない労働者を解雇するという条件をつけて、労働条件の変更(新たな労働条件での労働契約再締結)を通知するものです。個別的な労働条件変更のための新たな手法として注目されています。
(参考判例
スカンジナビア航空機事件 東京地裁 7.4.13)
人事異動・懲戒処分などによる労働条件の不利益変更
懲戒処分としての降格を理由とした賃金の切り下げの場合は、懲戒処分として有効かどうかが問題になります。
就業規則による懲戒事由の定めが必要
就業規則の定めの要件に当てはまっていることが必要
当該労働者の弁明の手続きの履行が必要
降格の内容に合理性が必要
人事上の措置としての降格を理由とした賃金の引き下げは、人事上の行使として可能ですが、人事権の濫用にならないことが必要です。以下の諸事情が参考とされます。
使用者側における業務上・組織上の必要性の有無と程度
能力や適正の欠如など、労働者側における帰責性の有無と程度
労働者の受ける不利益の性質と程度
当該企業における昇進・降格の運用状況
職能資格制度における資格や等級の引き下げによる賃金の引き下げについては、使用者の裁量権を理由としての一方的な降格や賃金の引き下げをすることは出来ません。
しかし、基準をあらかじめ明確にし、その基準に基づいてのものなら有効とされています。
配転に伴う賃金の引き下げは、労働者の同意や、就業規則による定めが必要で、配転により直ちに賃金切り下げになるものは認められません。
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懲戒のルールについて
「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことを要する。」(フジ興産事件 最判平15.10.10)と判決しました。
新しい労働契約法では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係わる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」(労契約法第15条)と規定されました。
(参考判例 ダイハツ工業事件 最判昭58.9.16)