中小企業のM&Aについての背景と特徴

2006年版中小企業白書によると中小企業経営者の、95%は自分の後も他者に事業を引き継ぎたいという希望があるにもかかわらず、既に後継者を決めているのは半数に満たず(約49%)、15%程度は後継者の候補者すら見当たらない状態にあります。 子息・従業員に後継者がいない場合、事業売却(M&A等)は事業継承の有力な選択肢です。これには、従業員の雇用を確保できるなどのメリットがある反面、企業文化の問題や経営者の心理的抵抗感などが課題となります。

中小企業のM&Aは、「企業の強み」が明確であり、一定の収益・資産を確保していれば、従業員10人程度の小規模企業でも活用できる事業承継手段です。

M&Aのプロセス

流れ図

事業売却を考える中小企業経営者に対し、経営者自身が手に入れる売却益と、自社の従業員の雇用確保のどちらを重視するかと質問したところ、買い手に「従業員の雇用を保障しないが企業価値を高評価する会社」を希望する企業は21.5%に過ぎないのに対し、「企業価値の算定額は低いが従業員の雇用は保障する会社」を希望する企業は69.6%に上ります。

中小企業のM&A市場は、一般に友好的M&Aであり、売却価格よりも事業部門の従業員の雇用が優先されるという、人情味の強い「ウェットな市場」であるといえます。
条件の統一


合併の労務問題と事前調査の必要性

合併は組織法上の手続で、M&Aの法制度では人事・労務についての規制は会社分割(労働契約継承法)以外には存在しません。

効力発生日で権利義務が移転することは、雇用関係についても同様です。しかし人事労務の側面から見た場合は、合併前からその後に渡り、労働者の心理的な要素を無視することはできません。いかに円滑に人事・労務についての要件を移行させるかが、成否を分ける大きな要素となります。これらのことからも、人事に対するデューデリジェンス(事前調査)が重要です。

労働条件の統一

■吸収合併の場合

原則:「合併による存続会社は解散会社の権利義務を包括的に継承する(会社法27条2号)」 雇用契約の継承に関する従業員の同意(民法625条の1)は不要です。

条件の統一

■個別同意と就業規則
就業規則の変更をしない場合は、個別同意による労働条件の不利益変更をすることはできないものとされます。(労働契約法第9条、10条、12条)

■会社分割の場合
雇用契約の承継については、承継会社・設立会社に帰属させることができます。
(雇用契約の承継に関する民法625条1項の適用は不要)
会社分割によって承継された労働契約は、分割会社から設立会社等に包括的に承継されるので、労働協約、就業規則に規定されている労働条件、および確立された労働慣行は維持されます。つまり会社分割による労働条件の変更は生じないのが原則です。

分割後の労働条件・福利厚生 項目
原則として会社分割により労働条件の変更は生じないもの 労働協約・就業規則・労使慣行・勤続年数・社宅・社内住宅融資制度・退職金など
該当の労働者と協議を行い妥当な解決を図るべきもの 厚生年金・厚生年金基金・健康保険組合・中小企業退職金共済契約(中退共)など

■合併・会社分割に伴う解雇
日本の労働法制では合併・会社分割を理由にした整理解雇の正当性を認めていません。合併による余剰人員の整理解雇については、通常の整理解雇法理に従い検討を行う必要があります。